能力者の事実
桜部の、由と沙夜裡と汰火を除く部員達は篠音の家へと向かっていた。
由は今日は家の用事で早く帰らないといけなかった。
なので、終わった後クラスと部活の片づけを終えてすぐに帰って行った。
汰火は生徒会長ということでまだまだ仕事が積み重なっているらしい。
沙夜裡は、そもそも乱舞祭に来ていなかったから来るはずもない。
だから、今いるメンバーは篠音、梨奈、夜斗、由姫、透、文弥の6人である。
由姫は下を見ながら考えていた。
――乱舞祭の一日目。
テロを起こそうとしていたらしい男たちが部室にやってきた。
そして、篠音さんと梨奈さんは銃口を向けられていた。
私ととーちゃんは部屋の隅に隠れていたが、見つかると思ってた。
けど、男は気づかなかった。
その時点でも驚きだったけど……。
何よりも驚いたのは、篠音さんだよ。
なんて言ったかな、あの言葉。
アイス・ハートだっけ?
直訳すれば氷の心臓だけど……。
つまり、あの人達は凍っちゃったの?
けど、人間にそんなことできるわけ無い。
そう思いたいけど……だとしたら、あの人達が急に動かなくなった説明がつかない。
何が、何が篠音さんにはあるの……?
私たち人間とは、少し違うの……?
「お待たせ、着いたよ。入って入って」
顔を上げたら、広い屋敷のようなところに着いていた。
「ただいまー」
「お、お邪魔します~……」
「お邪魔します」
「広い家っすね~」
普通の一般人が持つような家ではない。
「し、篠音さん……?篠音さんの家って、お金持ちなの……?」
「んー、半分正解ってとこかな」
玄関で靴を脱いでいると、着物を着た女性がやってきた。
「篠音様、お帰りなさいませ。部屋の準備はできております」
「遮断にしてあるでしょうね?」
「もちろんでございます。念のため、結界を張っておきましょうか?」
篠音はしばらく考え込んだ。
「……じゃあ、念のために頼もうかしら。場所は?」
「奥の客間にしておりますが……」
「なら、いいわ。早く準備を」
「かしこまりました」
そう言うと、女性は深くお辞儀をして去っていった。
「篠音、遮断必要なの?結界も……」
「乱舞祭の一日目で分かったとおり、目を付けられ始めてるからね。そろそろ戦いかも」
「そっか………梨奈も早く出ないかなぁ………兆候」
「どうかしらね?光が見えるってだけだし……消える場合だってある。……っと、着いたよ。ここ」
篠音に案内され着いた場所は和風な部屋だった。
テレビなどもなく、本当に和風な部屋だ。
椅子と机だけは現代だが。
「適当に座って良いよ。……あ、お茶持ってこさせようか。……おーい、お茶を……7個」
7個?由姫はそれに疑問を覚えた。ここにいるのは……6人だよ?
「篠音さん、ここにいるの6人だけど……」
「後でご登場する人がいるの」
「えっ、誰??」
「秘密~。来てからのお楽しみ♪……さて、お茶も来たことだし……話しましょうか」
机を見るともうお茶があった。
一体いつの間に?
「じゃあ、たぶん由姫ちゃんが疑問に思ってる事ね。私がこの前使った力の事。テロを起こそうとした男たちの事。今言った、そろそろ始まる戦いの事。この3つかな?」
「うん。あと………その話を聞いた後で、だと思うんだけど……なんで、その話を篠音さんが知っているのか。って事も疑問かな……」
「あ、そっか。当然、それも疑問になってくるよね。となると、疑問は4つかな?」
由姫はその後頷いた。
深呼吸をしてから篠音の目をまっすぐに見て
「……篠音さんは、私にとって憧れだから。4月から変わることない、憧れの存在だからこそ…………ちゃんと、話してほしい」
「………うん。じゃあ、話そうか」
篠音はお茶を飲み、深呼吸をしてから口を開いた。
「じゃあ、1つ目の疑問。私が使っていた力の事、ね。想像ついてるかもしれないけれど、これは超能力。私は、中学1年生になって、能力者になったの」
由姫は息をのむ。
想像はしていたけれど、本当に能力者だとはあまり思いたくなかった。
「まあ、紹介してしまうと夜斗君も能力者だよ」
「えっ、夜斗先輩も?」
由姫が夜斗の方を向く。
「うん。僕も、中学1年生になってから、能力者になったんだ」
「みんな、中学1年生から能力者になってるんすか?」
透が聞く。
篠音は頷き、
「それについては、私たちの考えだけど理由があるわ。あとで話すわね。……で、能力なんだけど……私は、見てたとおり氷を扱う能力。文化祭で見たときは広範囲に使っていたけれど、小さいものも作れるのよ。………ほら」
そう言って、篠音は氷でできたうさぎを見せた。
「わっ、すごい!!………え、これ動くの!?」
篠音が作った氷のうさぎはテーブルの上をぴょんぴょんと飛び跳ねた。
篠音がおいで、とやると篠音の場所に近づき、手の上に戻った。
「意志を持って動くことができるの。私が命令して、動かすこともできるけれどね」
「そうなんだ~……。夜斗先輩のはどんな能力なの??」
由姫は夜斗のほうに向きなおる。
「僕の能力?えっとね………」
「あ、ついでに説明する良い機会だから………夜斗君、私たちのを解いてくれる?」
「えっ、あ、はい、ちょっと待ってね………」
夜斗は目をつぶった。
その後、目を開けた。
「……よし、できたよ」
「?夜斗先輩、何したの………って、え、何、その目…!?」
目を開けた夜斗の目は青かった。
いや、夜斗だけではなかった。
篠音も、そしてなぜか文弥も。
青くなっていた。
「な、なんで青なの??さっきまで普通に黒かったのに……」
「僕たち能力者は目が青になるんだ。ただ、あんましそれを見せびらかしたいわけでもないから、僕の能力でみんなの目の色を黒くしたんだ」
「じゃあ、夜斗先輩の能力は……」
「僕の能力は、色を変える能力。人にも使えるし、物にも使える。自然には使えないけどね」
「自然って言うと……」
「木々とか、水とか。なんか、自然の法に触れちゃうらしいよ」
「そうなんですか~……。人には、大丈夫なんですか?」
「うん。僕もその辺はわからないんだけどね……」
それまでずっと黙っていた透が口を開いた。
「篠音先輩……あの」
「ん?なあに?」
「もしかして……文弥も能力者なんですか?」
由姫は思い出したように文弥の方を向いた。
そういえば、文弥は目が青くなっている。
「ああ、それは……」
「うん、そう。俺も、能力者。俺は、人の心を見る能力。ま、普段は抑えているからいつでも人の心を見ているわけじゃないよ」
「人の心を見るってことは……あたしたちが考えていること、全部わかるってことか?」
文弥は少し考えてから、
「それもそうなんだけど……その人が今、どんな心の状態なのかとかもわかるよ。……その気になれば、未来だって見えるし、ね」
「え、未来も見れるの!?すごいね、それ!!」
「……そんなにいいものじゃないよ、俺のは。……それに、未来が見えるのはたまに、だからさ。そんなに頻繁には見えないよ」
「そうなんだ~…。私にも、何かあればいいのになあ………。…………あれ?梨奈さんの目、緑になってる?」
由姫は立ち上がり、梨奈の近くに寄った。
確かに、近くでよく見るとわかる。
梨奈の目は、緑色になっていた。
「な、なんで?」
「それは………」
篠音が答えようとするのを遮って、梨奈が答えた。
「梨奈も能力者だから、って答えたら?」
由姫はその言葉に戸惑い、しばらく考えた。
「ええと…………な、なんで、篠音さんたちとは色が違うの?」
それについては、篠音が答えた。
「私たち、目が青い方は完璧な能力者。なんのリスクも負わず、無限にその力を使い続けることができる。たまに、力が暴走しちゃうときもあるんだけど……。けど、ほとんどの場合は無いの。なぜかっていうのは……よくわからない。私たち、青の方には特別な力が働いてるのかもしれないとしか言いようがない。ただ、ね。目が緑の方は不完全な能力者なの。与えられた力を使えば使うほど、高いリスクを背負わなきゃいけなくなる。そのリスクっていうのは、力の暴走のこと。力を使えば使うほど、力が暴走しやすくなる。そして、暴走した場合…………辛いこと言うようかもしれないけど、死ぬわ。そんなリスクを背負っているのが、緑の人なの」
その言葉に、由姫は息をのむ。
近くにいる先輩が、死と隣り合っているなんて耐えられない。
自分を落ち着かせるために、由姫は話した。
「………っ、とーちゃん……よくそんなに落ち着いてられるね……」
それに透は答える。
「あたしは、知ってた。篠音さんから聞いてたんだ。この前、儀式に行ったときに。あの時は、あたしだって驚いた。怖かった。……けど、そんな感情すぐになくなった」
「なんで……?だって、死んじゃうかもしれないんだよ!?」
珍しく、由姫が声を荒げる。
それに対して透は下を向いたまま、答えなかった。
「………っ、答えてよ!!!」
由姫が涙目になりながら叫ぶ。
透は、震える声で言った。
「………だ、だって……あたし……あたしは……!」
「自分も、同じように緑色の目だから、って言いたいんでしょ?透」
その時、声が聞こえたのはここにいるメンバーではなかった。
後で登場する、と篠音が言っていた7人目だった。
「久しぶり、みんな。そろそろ話さなきゃいけなかったから、タイミングとしてはちょうどいいのかな?」
みんなの視線が向く先には、沙夜裡がいた。
光草沙夜裡。桜部部員の中で一番年上。高校一年生。
学校から直接来たようで、制服を着たままだった。
由姫たちも着たままだったが。
「さ、沙夜裡さん……!?ど、どうして……?」
好きな先輩でもある沙夜裡に由姫は聞く。
沙夜裡はにこりと笑って
「そこの部長ちゃんに頼まれてね。学校での用事が終わってからでいいから家に来てって」
沙夜裡は篠音の方を向く。
篠音は苦笑いして
「すみません、先輩。用事、終わったんですね。来てくれて助かりました」
「私が説明してもいいんだけど……篠音が説明した方がいいんじゃないかしら?」
「いえ、私ではなくて先輩が説明してくださった方が説得力がまるで違いますから」
「そうかな?……あ、梨奈。どう?その後、何か変化はあった?」
「いえ、ないですよ、沙夜裡先輩!沙夜裡先輩に指示された通り生活して、あまり能力も使ってないので……」
「なら、いいや」
沙夜裡は由姫たちの方を向き
「久しぶり~、みんな。元気にしてた?………って、透とは何回も会ってるか」
「沙夜裡さん、久しぶりっ!!!会いたかった~!」
由姫がさっきまでの様子とはまるで違い、沙夜裡を見た途端笑顔になり、沙夜裡に抱きついた。
「沙夜裡さん、そんなにとーちゃんと会ってるの?」
「うん、まあね。………と、それより今は能力の話か。さっきも言っていたけれど……透は、能力者よ。緑色の目の、ね」
由姫は笑顔からまた暗い表情になり、うつむいた。
「……けど、目は黒いままだよ?」
「あたしが夜斗先輩に頼んだんだ。あたしの目だけは、黒のままにしてくださいって」
「なんで……!!」
「由姫には心配かけたくなかったんだ。……予定が変わったから、話す気になったんだがな」
「予定?」
由姫の疑問に対しては、沙夜裡が答えた。
「最初は、由姫に話す予定はなかったのよ。ただ、私が……見つけちゃったからね。話さないわけにはいかなくて」
「見つけたって………何を?」
「私はね、能力が3つあるの。学校内だけの瞬間移動、人や物の察知。そして、能力が宿っているかどうかの見分け」
「能力の見分け!?そんなこと、できるの…?」
「ええ。あなたたちが入部したとき、すぐに分かったわ。透が能力持ちだって事はね」
由姫は透の方を向いた。
「とーちゃんは、何の能力なの?」
「あたしは触れた相手のサポートだな。触れたら、全ての能力が上がる。能力って言うのは攻撃とか、防御とかな」
少しうつむいて、
「………そのかわり、使えば使うほどリスクは増えるけどな」
「…………それは、変えられないの?」
「由姫、残念だけどそれは無理よ」
「なんで、沙夜裡さん。手段が無いなんて証拠、どこにも……」
「私の能力を見分けるって力はね。ただ、有るか無いかを見極めるものじゃない。その人が背負っているリスク、あとどれだけ能力が使えるか……。それも、わかるの」
「リスク………」
由姫が、目をつぶりながら呟く。
「私は、いままでずっと見てきた。能力者の人たちを。全員、変わることのないリスクを背負っていたの。だから、変えられない。青色の目の人たちはリスクを背負って、緑色の目の人たちは、さらに能力を使い続けるとリスクが増えていくって事も」
「……………っ」
由姫は何も言えなかった。
自分は、さっき能力の存在を知った。
今まで、ずっと能力について知ってる人が目の前にいるのだ。
正論、なのだろう。
「あ、あと、さっきの篠音の言い方だと青色の子達は何のリスクも無いって言うように聞こえちゃうかもしれないけれど………違うわよ?まあ、能力を使うっていう点では合ってるけれど……」
「え?」
「能力者には、全員共通のリスクがあるの」
「なに、それ……」
「私ね。さっき、言い忘れちゃったんだけど、能力の寿命も見れるの」
「能力の………寿命………?」
沙夜裡は頷く。
「能力を持った人は、永遠にその能力を使えるわけじゃない。ちゃんと、寿命があるの。………それが、リスクなの」
「沙夜裡、さ………それ、どういう………」
由姫は震えながら聞いた。
しかし、先の言葉は想像できていた。
最悪の、言葉が。
透たちも、それを知っているのだろう。
沙夜裡と由姫以外、目をつぶっていた。
「能力を持った子達は、能力の寿命がある。……………そして」
こんな言葉、聞きたかったわけじゃない。
篠音さんから真実を聞きたかっただけ―――。
「能力の寿命が尽きると、私たち能力者は……………死ぬの」
由姫は目を強く、つぶった。
現実を見ないように。
外は、雨が降っていた。
END




