波乱の乱舞祭
「さて、当日になったわけだけど」
篠音は今いる部員をぐるっと見回す。
今いるのは、篠音、梨奈、由姫、由、透。
汰火は生徒会長なので、部室の方には来れない。
夜斗は人前に出ることのできない特別な生徒で、この人数と一緒にいるだけで辛くなってしまう。なので、一足先に部室へ向かい、準備をしている。
文弥は『学校の顔』なので、先生達と一緒に挨拶周りをしている。
沙夜裡は成績が下がったらしく、親から参加を許されなかったらしい(乱舞祭の参加には親からの許可が必要となっている)
「人数は少ないけれど……きっと大丈夫。やることはわかっているでしょう?」
「うんっ、篠音さん!赤いリングをつけた人達が来たら説明すれば良いんだよね!!」
由姫が先程の緊張した顔ではなく、笑顔で答える。
「そう。だからって、緊張しないで?宣伝で歩いているときは、遊んでもいいんだから」
「わかっています、部長。もちろん、仕事もこなしますが」
「うん。楽しくやってくれればいいよ」
「梨奈達だって、思いっきり楽しくやってくるしねぇ」
「今年こそは、負けないわよ」
「上等。こっちが勝つんだから」
篠音と梨奈が目で火花を散らす。
由姫達はそれに安堵して、笑う。
「代表ーーーっ!!!!そろそろ開店するんで、戻ってきてくださーい!!!!!!」
「篠音様!!!!そろそろ開店なので、直前の確認よろしいでしょうかー!!!!!」
篠音と梨奈がクラスの人に呼ばれる。
「んっ、もう開店か。じゃあ、行くけれど……本当に、気負わないでね。楽しくやることこそが、成功の鍵でもあるのよ。……じゃあ、私は行くわね。………今、行くわ!!!」
篠音が去っていく。
「ま、梨奈も篠音と同じ意見だよ。こんなものに気負う必要なんてないからね。リラックス、リラックス……。落ち着いて、楽しんで、この初めての乱舞祭を思う存分遊んでやりなさい。……じゃあ、頑張ってね。できるだけ手伝うようにはするから。…………はーい!!!今、行く!!」
梨奈も去っていき、由姫達は取り残された。
「こ、この雰囲気が乱舞祭なんだよね………だ、だいじょ……」
「雰囲気に呑まれんな、由姫。さっき梨奈先輩も言ってただろ?あたしらはこの乱舞祭を遊んでやるんだから。ったく、その緊張癖、直した方が良いぞ?」
「………ん、そうだね!!楽しんでやるぞーーー!!!」
「ほら、早く行きますよ。夜斗先輩に任せっきりなんてできません」
「あっ、そうか!早く行かないと……!」
3人は急ぎ足で部室へと向かった。
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「こんな感じで大丈夫でしょうか?夜斗先輩」
「うん、大丈夫だよ。そんなに気合い入れなくても……発表、だからみんなが勝手に見ていくようなものだし」
「夜斗先輩は文化祭回らなくていいんすか?ずっと部室にいるって篠音さんが言ってたんですけど……」
透が申し訳なさそうに聞く。
それに対して、夜斗は苦笑を向けて
「人が多いとやっぱり駄目なんだよね……。クラスとかは、知ってるから大丈夫なんだけど………こんな風に外からのお客さんが多くなると、不安すぎるっていうか…」
夜斗は人が多いところにいると、気分が悪くなり最悪な場合、倒れこんでしまう。
人が多い、と言っても学年の生徒は大丈夫なのだが、見知らぬ人が大勢いると駄目になってしまう。
だから、乱舞祭のような見知らぬ人が大勢いるところではサポートに回ったり準備を手伝う。
「あ、そっか……。参加できなくて辛くないの?夜斗先輩は……」
「いや、そんなことないよ。全く辛くないなんて言うと嘘になっちゃうんだけど…準備期間とかはみんなと一緒に参加できるし、一般の人たちが帰った後に少し回らせてもらってるから、楽しくこの乱舞祭を過ごさせてもらってるよ」
夜斗は楽しそうに言ったので、3人はほっとした。
由が腕時計で時間を確認し
「そろそろここも開けますよね?店番と宣伝で分かれないと……」
「あ、そっか。だれが残る?」
由姫が透と由に尋ねる。
「あたしがやるよ。2人は回ってきなよ」
「え、いいの?とーちゃん」
「いいよ、別に。この後たっぷり遊ぶしな。それに、ちょっとここで見たいものがあるからな」
透がひらひらと手を振るので由と由姫は笑い、
「じゃあちょっと行ってくるね!後でまわろーね!!」
「透、少しの間お願いしますね。帰ってきたら、私が代わりますので」
「んー」
仲良く出ていく2人を見送った後、透は夜斗と何かを話し始めた。
しかし、声は聞こえなかった。
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「由ちゃん、すごいにぎわってるねー」
「ええ、そうですね……。文化祭と体育祭、合唱コンクール…この3つが一緒にあるからなのでしょうか?」
見渡す限り、人、人、人だ。
ただの一つの学校の行事のためにここまで人が集まってくると思うと奇妙にも思える。
この学校にそこまでの特色はあっただろうか?
「あ、ねね、由ちゃん!あのクレープおいしそうじゃない!?」
「あら、本当ですね」
由姫が指さしたのは学校が出展しているクレープ屋だった。
「あれ、とーちゃんとも食べたいな~……」
「なら、こうしませんか?一通り宣伝し終わったらこちらに来て、透の分も買って帰る。これなら、3人で食べられると思うのですが………」
由姫はぱっと顔を輝かせて
「うん!!!そうするよ!!!!じゃ、張り切って宣伝いこーーーー!!!!!」
「ああっ、ちょっと、由姫、そんなに走らないで……!」
元気に走り去っていく由姫の後をよろめきながら由が追いかけた。
そんな2人を見守るように太陽は照っていた。
しかし、少しだけ雲が多くなってきた。
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「ただいま戻りましたー……って、あれ、部長、副部長、来てくださったのですか?」
「ねーねー、とーちゃん!!みて!!このクレープ、おいしそうじゃない!?買ったんだよ~!食べ~……って、篠音さん!?梨奈さんも!?」
由と由姫が宣伝から帰ると、部室には篠音と梨奈が居た。
「お疲れ様~。まあ、ちょっと色々あってねー」
「あっ、何それ!おいしそ~。私も買ってこようかな……」
「色々って、何があったの??」
「………」
「………」
2人が顔をそらすので、透が代わりに答えた。
「篠音さんと梨奈先輩のお店、どっちも大好評だったんだけどな。大好評すぎてまさかの午前で材料も何もかもがなくなるっていう事態が起きて。今急いで追加注文してるところなんだよ。それで、お店が開けないから今は臨時休業してこっちに来てるんだ」
「まさか、あんなにお客様が来るなんて思わなくて……」
「いっつも多いけど…今回ほど多いのは初めてだよ」
篠音と梨奈が驚くように呟く。
どれくらい来たんだろう?
「篠音さん、梨奈さん、どれくらい来たの??」
由姫が聞いてみると2人は難しい顔をした。
「どれくらいだろ……。いっつも、1日で3万人くらいなんだけど……」
「今回は、それが午前中に来たって感じで。梨奈も篠音もカフェなんだけれど、材料も何もかも去年の人数+1万人ぐらいの量にしてたから足りなくなっちゃったの」
「普通、そんなに来るとは思えませんが………よほど、部長と副部長のお店は素晴らしいのですね」
「なら、来る?材料無いって言っても5人分くらいは残ってるわよ」
由姫はそれを聞いた途端、飛び跳ねた。
「やったっ!!!!!あ、じゃあさ、終わった後行ってもいい??」
「篠音、だとしたら1日目終わった後に部員全員呼んで飲んだ方が良いんじゃない?」
「そうね。梨奈のところは……」
「主に飲み物。それに、少しお菓子を添えるくらいかな」
「私のところはお菓子専門って感じね。じゃあ私がお菓子作るから、梨奈は飲み物お願いしていい?」
「ん、おっけ。クラスのみんなに連絡入れとく」
「いいんすか?」
透が聞く。
放課後にわざわざ、しかも自分たちの分を特別に作ってもらって、という意味だろう。
理解したように、篠音は頷いた。
ふいに、梨奈が思い出したように言った。
「そういえば、特別な方々は来たの?」
「いや、まだっす。朝からけっこう時間経ってるのに、まだ来ないんすよね」
「そっか。……うーん……そろそろ来てくれないと困るなぁ……」
困ったように時計を確認する篠音に由姫は疑問を投げた。
「ねぇ、その特別な人達ってどれくらいえらい人達なの??それと、なんでそんな人達が桜部の展示に来るの??」
「あ、そっか。由姫ちゃんには話してなかったか」
篠音が周りを見回し、
「今そこまでお客様いないし……ちょっと仕事サボっても良いよね」
篠音は由姫に向き直って話そうとした。
その時、由が思い出したように
「……あ、すみません、部長」
「ん?どしたの、由ちゃん」
「お昼ぐらいに一回教室戻ってきてと言われていまして……抜けても大丈夫でしょうか?」
篠音は笑顔で答えて
「見てのとおり、こんなに人いないからね。それに、今日は私たちもう戻る気はないし…いいよ」
由は頭を下げて、
「ありがとうございます。すぐに戻ってこれると思うので……」
小走りに部室を出ていった。
由姫は
「由ちゃん大変だなぁ……学級委員って忙しいんだね」
「え、由ちゃん学級委員なの?」
「うん、そうだよ。……ね、篠音さん。それで、話の続きは?」
「学級委員なのに、よく部活と両立できたなぁ…。………あ、うん。特別な方々が来る理由よね」
篠音は周りに人がいないことを確認し、念のために声を小さくして話し始めた。
「……そこまで、深い理由はないんだけどね。ほら、この風吹市って夜桜が咲くでしょ?国はそれがどういう現象を引き起こすのかを調べようとしなかったけれど……桜部はそれを調べるために創った部活、でしょ?それに国の人達がえらく感動してね。夜桜を調べるために必要なお金を毎月毎月くれるのよ」
「まあ、梨奈たちはそれをお菓子代や遊び代として頂いてるわけだけど……」
「それは言わないの。……とにかく、夜桜を調べてるのなんて私たち桜部くらいしかないから。国からも一目置かれているの。それで、そんな桜部が夜桜について発表するのはこの文化祭しかなくて……だから、たくさんの偉い方々が来るのよ」
由姫は篠音の説明を受けて、しばらく目をつぶって考えていた。
2分たったら目を開き、
「とにかく、桜部がすごいって事だね!!!!」
無理やりまとめた。
透が横で「絶対わかってねぇ……こいつ……」と呟いた。
もちろん聞こえないフリをし、
「篠音さん、なんでそろそろ来てくれないと困るの?」
篠音に声をかけた。
「正午ぐらいって、ちょうど人も少なくなってくる頃だし……」
「人が多いときに説明するのって、色々辛いの。周りの人も聞き入っちゃうし」
「ほんと、今来てほしいんだけどねぇ……」
篠音と梨奈が困ったように顔を見合わせた。
由姫は客がいなくて暇なので、外に行ったり中に入ってきたり客が来ないかとそわそわしながら待っている。
透は由姫と由からもらったクレープを大事そうに食べている。
篠音と梨奈はずっと時計を確認していた。
1時になると、篠音は急に携帯を取りだし、誰かに電話をかけた。
誰に電話しているのか、と聞こうと思ったが話し始めたので由姫は口を閉じた。
「もしもしー、夜斗君?今どこにいるー?」
どうやら夜斗と話しているらしい。
「……ああ、はいはい。……うん、そう。そろそろ時間かなって。……了解。じゃあ、そこで。よろしくね」
話し終えたらしく、篠音は携帯をしまった。
由姫は待っていたとばかりに篠音に聞いてみたが
「篠音さん、なんの話―??」
「んー、ちょこっと大人の事情かな」
はぐらかされてしまった。
「由姫はなんも知らなくていいんだよ」
「えー、とーちゃんだって知らないくせに―」
「………とにかく、よけーな事は知らなくていいんだよ!」
「いたあっ!?」
透が由姫に軽くデコピンをした。
由姫は痛がってはいたが顔は笑っていた。
その時、篠音は鋭い目でドアの方を見た。
梨奈はそれを見て表情を変え、
「……来た?」
「うん。2人を、安全な場所に……夜斗君のところに……」
篠音の声は途中で途絶えた。
理由は、部室の扉が開いたからだ。
由姫はそれを見てうれしそうな顔をして
「あっ、おきゃくさ……」
「由姫、いっちゃダメ」
「え、梨奈さん……なんで……」
「っ……これが、そうなんですか?梨奈先輩……」
「察しが早いね。……あのドアの近くまでこっそり行くよ」
「ね、ねぇ、お客さんは……」
「由姫、黙ってろ」
透が由姫の口を押さえた。
「由姫のこと、よろしくね、透」
梨奈はそう言うと、篠音の近くに駆け寄った。
篠音は来た客の近くに行った。
来た客は男が3人だった。
「来てくれて、ありがとうございます。ゆっくりとご覧ください」
「………ここでは、夜桜についてやっていると聞いたのだが」
篠音の近くに来た梨奈が代わりに答えた。
「はい。私たち桜部が1年間かけて調べ上げた結果を発表しています」
「………そうか」
1人が荷物を置き、中にある何かを探し始めた。
それが合図のように他の2人も同じようにし始めた。
それに対して、篠音は困ったような声を出し
「あの、お客様……。あまり、入口付近に立ち止まられるのは……」
「うるせぇな」
「あの………」
「……黙れっつってんだろ?殺されたいか?」
リーダー格の男は篠音に銃口を向けた。
他の2人のうち、1人は梨奈に銃口を向け、もう1人は部室のドアを閉めて鍵をかけた。
篠音と梨奈は表情を変えず、素直に従った。
「……ま、なんもできねぇだろうが手は上にしろ」
2人は素直に従った。
由姫はそれを見て、飛び出そうとした。
しかし、透がそれを抑える。
「とーちゃん、なんで……!」
「黙れ。………2人はこれを知ってたから、あたし達をこっちにやったんだ。……きっと、なんとかなる。ただ、声は出すなよ……」
2人は部室の隅に固まった。
男たちは1人を篠音たちの見張りに残し、部室の中を歩き回った。
ところどころ写真を撮りながら「……もうここまで進んでいるのか」や「……世界をどうするつもりなんだ……」などと、聞こえるが自分たちにはわからない。
そして、とうとう近づいてきた。
由姫はぎゅっと目をつぶった。
もう、バレると思ったから。
震える由姫を透は力強く抱きしめた。
しかし、バレることに変わりはない。
一歩一歩、男の足が近づいてくる。
視界にはいるまで、あと3秒もなかった。
由姫は、死を覚悟した。
―――そのはずだった。
しかし、男はこちらに気づくこともなく、通り過ぎた。
由姫は驚愕の表情になった。
と、その時。
「うぐっ……」
篠音たちを見張っていた男が倒れた。
それに、2人の男は反応し、篠音達のもとに行き銃口を向け
「動くなと言ったはずだ!!!!!!」
発砲した。
――――はずだった。
しかし、音はしない。
男が
「な、なぜだ……!?」
と困惑していた。
その様子を梨奈と篠音はただ見ていた。
少し気温が下がったような気がする。
「……相手が悪かったね」
梨奈が相手を見ながら言う。
それに続き、篠音が今までに聞いたことの無いような恐ろしく冷たい声で言った。
「………この、私がいる桜部に。桃英中学校にテロを仕掛けようなんて浅はかだね。自分たちの寿命を縮めにきたの?……ま、どうせあんた達は能力も使えない雇われ、ってとこでしょうけど」
篠音が一歩一歩男たちに近づいていく。
男たちにはさっきの余裕の表情は消え、恐怖に満ちた顔に変わっていた。
「な、なんだ、お前――!!」
「覚えておきな。あんたらの上司に伝えてやりなよ」
篠音は男たちの頭上に手をかざした。
「――桜部には、高性能の能力者たちを向かわせないと、歯が立たない。ってね」
冷たく微笑み、篠音は一言呟いた。
「………氷の心臓〔アイス・ハート〕」
男たちは凍らされたかのように動かなくなった。
篠音は由姫達の方を向き、
「夜斗君、もういいよ。ありがとう。由姫ちゃん達も、もう大丈夫だから」
そう言われて、由姫は立ち上がり、篠音のそばに駆け寄った。
「篠音さん…………今の、何…………」
それに対し、篠音は誤魔化すことなく由姫の目を見て言った。
「この文化祭が終わったら話す。で、いいかな?今日終わった後、じゃ…………長くて話し終えられない」
由姫もその言葉に対して、いつものように子供っぽくせず篠音の目を見て言った。
「うん。全然良いよ。ただ、文化祭が終わったら……必ず話して」
「ええ。いつか必ず、話さなきゃいけないから。…………さ、こいつ等は………とりあえず迎えが来るまで裏においておきましょう。さ、再会しましょ!!」
「うっす」
透は立ち上がり、持ち場に戻った。
篠音と梨奈は男たちを裏へと引きずっていった。
由姫は、目を閉じて深呼吸した。
そして、鍵を開けて部室のドアを開いた。
END




