由姫の異変
由姫は、目を瞑った。
夜桜を前にして………思い出し、そして………葬らせようとしている。
物語は、何の前触れもなく一気に動き出した。
「12月31日?うん………空いてるよ?」電話の相手は咲だ。
2人は、今やすっかり仲良しだ。今も、遊ぶ予定を立てているところである。
1ヶ月前……咲が入部してきたとき。あの時はまだ、咲のことがよくわからず、由姫は少し不安がっていた。
しかし、話すうちに大丈夫になっていった。
そして、メルアドなどを交換するようになった。
咲はあんな風に強く振る舞っているが、実際は押しに弱かったり、電車の乗り方がわからなかったり………と、意外な一面が次々と見つかっていった。
そして、そんな中でも由姫と透の制御特訓は続いた。
透は制御が出来るようになり、また、自分の身体能力を上げることも出来るようになった。
由姫は、数秒だけなら自分の意志で過去へ戻れるようになった。
そんな時、篠音から夜桜について話された。
「そろそろ夜桜を開花させないといけなくなってきたの」
「夜桜を……開花?」
「えぇ。夜桜の開花はね、とても大事な事だって言われてるの」
「どれくらい大事なの?」
「そうね………由姫ちゃんが考えてる以上に、かな」
篠音はにっこりと微笑んだ。
「…………篠音、電話」
「えっ?……ああ、ありがとう、梨奈。……はい、長谷川です………」
「……ねぇ咲ちゃん。夜桜の開花って、今までの世界でもあった事なの?」
「えっと………まぁ、そうね。あったかな。ただ……私、夜桜の開花については記憶がないの」
「記憶が?」
「うん。毎回、夜桜を開花させようってところまでは覚えてるんだ。ただ、実際に夜桜が開花したのか………やり方はなんなのか………それは、覚えていないの」
「うーん……それって、私の記憶操作、みたいなのが働いてるのかな?」
「ないと思うよ?だって、あれは由姫の近くにいないと起こらないもの。私は、由姫の側にいた」
「そっかぁ。じゃあ………何でだろうね?」
「……………夜桜の性質、とか」
由姫と咲の会話に入ってきたのは夜斗だった。
「夜斗先輩?どう言うこと?」
「僕も、夜桜の開花をするところまでは覚えてるんだけど……やり方は覚えてない。で、それは、前の世界とかでもそうだったんだ。僕はずっと夜桜の性質とかについて調べてたんだけど………夜桜は大きな力があるでしょ?もしかしたら、その力………ううん、その力を制御している何か…夜桜自体に、意志があるんじゃないかって思うんだ」
「夜桜に…………意志が?」
「僕も最初は過去の力がこう言うのにも及んでるんだろうなって思ってたんだ。けど、神城さんと同じように……違うと思った。次に考えたのは、過去の力を使うとき………直前の記憶は消されるんじゃないかって事を考えた」
「あり得るかもしれませんね。なんと言っても、力を使うのは夜桜開花の時だったから……」
「うん。けど、それも違うと思った。なぜかって言うと、力を使ったのは夜桜開花以外でも使ってたんだ。なのに、その記憶はある。なら、直前の記憶が消されるんじゃなくて、夜桜自体に力があるんだって考えた。たぶん………夜桜の開花って…………本来は、誰にも知られちゃいけなかったんじゃないかな」
「け、けど、夜斗先輩!!私たち、知ってるよ?」
「うん。たぶん、本来通りなら僕達は知るはずもなかった。大昔に…………何かがあったんだ。そのせいで、僕達は今、開花をしなきゃいけないんじゃないかなって思うんだ」
「その可能性はありますね。なんにせよ、開花はしなければいけませんけど………」
由姫は2人の話を聞きながら、全く別のことを考えていた。
夜桜と言う言葉を聞く度に、何かが心の中で引っかかる。
2人の言っていることはわかる。
普通、誰だってそう考える。
けど、何かが違う気がしてならない。
もし本当にその通りだとしたら………私たち能力者は何で存在しているの?
そんな事を考えてしまう。今の話に関係してないはずなのに……。
夜桜が、夜斗の言うとおりだとしたら………本来、知られているはずのない存在だとしたら………能力者はどうなっていたの――?
「由姫?おーい、由姫ってば」
「えっ。…………ああ、ごめん。ちょっと、考え事」
「まったく、しっかりしなさいよ。開花させないといけないんだからね?」
「うん。…………ねぇ咲ちゃん?どうして、開花させないといけないの?」
「それは…………」
咲が何かを言い掛けた瞬間だった。
「由姫ちゃん!!!!」
「えっ!?し、篠音さん!?」
「由姫ちゃん。悪いことは言わないわ。今すぐ家に帰ってちょうだい。お願い」
「何言ってるのよ、長谷川さん!!!由姫は必要でしょ!?」
「そうよ、篠音。どうして由姫ちゃんを帰さないといけないのかしら?理由を説明なさい」
「…………ごめんなさい、咲ちゃん、先輩。これは、言えないんです。ただ1つ、言えることはあります。由姫ちゃんを、私は………今、危険にさらしたくない」
「篠音……?」
「先輩、お願い。由姫ちゃんの為なの………今ここで、由姫ちゃんを失ってしまったら………騎士団が………」
「………わかったわ。………許して」
「えっ?」
沙夜裡が由姫の体に触れた途端、由姫は眩い光に包まれ、消滅した。
その瞬間、由姫は篠音の声を聞いた。顔も見た。
何を言っているのかは聞こえなかった。
ただ、篠音の顔が悲しんでるのではなく、口元が微笑んでるように見えた。
そして、意識を失った。
「………ん………?」
気づくとそこは、由姫の部屋だった。
「あれ…………私、は………?」
記憶がぼんやりしていて、あまり思い出せない。
数秒後、由姫は思い出した。
「そうだ、私……!!!光に、包まれて………」
そして、最後に見た、篠音の微笑み。
「篠音さん…………笑ってるような気がしたんだけどなぁ………」
いつもの篠音と何かが違う、と由姫は感じた。
「…………あれ、もう7時?降りて、晩ご飯………」
そう言って、リビングに降りていく。
しかし、そこには誰もいなかった。
「あれ?」
辺りを見回す。
そして、テーブルの上にある紙を見つけた。
「置き手紙……?」
内容はシンプルなもので『今日は、夜に仕事が入ってしまいました。晩ご飯は、温め直してね。帰るのは、明日の夜9時になると思います』だった。
「………あんまし、食べる気分じゃないなぁ………」
そう言って、由姫は自室に戻り、冬用のワンピースに着替えた。
「はぁ…………」
自分でも、なぜ着替えたのかはわからない。
ただ、由姫が夜に着替えて行こうとしている所なんて、一つしかなかった。
「久々に、桜道行こうかな」
「うん………異常なし」
やっぱり、自分のお気に入りの場所は違う。
吸う空気が、匂いが、景色が。
「そう言えば、咲ちゃんとは、ここで初めて会ったんだっけ。懐かしいな~」
咲との出会いを思い出した。
なのに、なぜか、別の何かを思い出した。
悲痛な叫び。高笑い。絶望に沈む顔。目をつぶり、横たわる姿。浮いている少女。吹き荒れる、桜。
「――っ!!?」
あり得ない。あり得ない。
由姫は心の中でそう思った。
「はぁっ………はあっ………」
それでも、何かを求めるようにして由姫は歩き出した。
辿り着いたのは、夜桜だった。
END




