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一夜の桜  作者: 七瀬結羽
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夜桜開花



辿り着いた夜桜を前にする由姫は、春でもないのに桜が散っている幻覚を見た。

その桜に手を伸ばそうとしている由姫の目は、虚ろだった。

手を伸ばし、幻覚の桜に触れようとしたとき。

声が聞こえた。


――――ダメ!!!――――



その声を聞いた途端、由姫の目には生気が宿った。

「…………私…………」

周りをキョロキョロと見渡し、目の前にある夜桜を見つめた。

「夜桜………。もしかして、私を呼んだのは………あなた………?夜斗先輩が言ってたように……意志があるの?昔から……この、桜道を歩く度に……何か、懐かしい感覚を覚えるんだ。遠い遠い昔のような………けど、最近のような………。ねぇ…………答えてよ、夜桜。あなたは………知っているんでしょう?何かを…………ううん、何かじゃない……。きっと………それは、過去、現在、未来。全ての時間軸において必要とされ続け………けど、本人は自分の存在を秘密にしたい。そんな存在の事………。夜桜。あなたが探し求めて………そして、全てを知っている。その存在って………」


由姫が大きく息を吸った時。



突如、由姫と夜桜の対話は破られた。




「由姫ちゃん!!?」


振り向いた視線の先にいたのは、篠音だった。

「何してるの!?あれほど、家にいろって言ったじゃない!!!!」

「え、え、篠音さん……?」

こんなにも怒っている篠音を見るのは初めてだった。

いつも穏やかな篠音。

たまに、怒ることもあるけれど……こんなに怒らない。

「みんな………あなたの………心配をしてるのに………」

そう言った篠音の顔には、涙が流れていた。

「あなたがいなくなったら…………私………私………!!!!!」

「し………のん、さん………」

何があったのかはわからない。

けれども、1つわかることがある。

由姫は、心の底から思った。


――この人が部長で………こんな人に出会えて良かった。


「でも篠音さん………どうしてここに?」

「…………」

「篠音さん?」

「………私があなたを部室から追い出した理由………わかる?」

「いえ…………」

「あのときかかってきた電話ね………騎士団からだったの」

「えっ、騎士団…!?」

「内容は、要約すればこう。『戦争しに行きます』ってこと」

「戦争……?」

「えぇ。彼らが戦争に勝って欲しいものは、ただ1つ。わかる?」

「もしかして…………」

篠音は頷いた。

「由姫ちゃん。あなたが狙われてる」

由姫は心の中で思った。

もう後戻りは出来ないのだ、と。

「………はい」

「それでね。あなたをあいつらに渡したくないし………渡しちゃいけないの。それに、あいつらの目的は阻止しないと」

「目的って……夜桜の力、ですよね」

「えぇ。しかも、その力はただ開花させるだけじゃ手には入らないの。夜桜を開花した後……封印させないと、ダメなの」

「封印?どうして、封印させないとダメなの?」

「……今の夜桜って、誰が管理してると思う?」

「管理?………いないんじゃ、ないかな」

「そう。いないの。本来は、誰かが管理してないといけないのに……今は誰もいない。だから、夜桜は暴走しちゃってるんだけどね」

「……?」

「管理人になった者はね。いつどこでも夜桜を開花させることが出来て……開花させたとき、その力を手に入れる権利を得るの」

「そう、なんだ……」

じゃあ、今暴走してるって言うのは何なんだろう……。

「管理人を失うと、夜桜は力の与えどころを失うの」

「力の……?」

「夜桜がものすごい強力な力の持ち主だって言うのは知ってるでしょう?」

「うん………」

夜斗がずっと調べてきて、わかったことだ。そして、その力には意志があるんじゃないかって事も。

「それってね。この世界………宇宙を生み出すほどの巨大な力で。夜桜はその力を持ってるの」

「そんな力を!?」

「と、言っても宇宙を生み出したのは夜桜じゃない。人間………いえ、今は人間の姿だけれど……神様。神様は、力を使ってこの宇宙を、世界を創った。けど、それは……世界を創り終えた後、神様がずっと維持し続けるのは難しかった。だから、神は夜桜を創った。その力を夜桜に封印するために。……けれども、問題があった。巨大な力を制御するためには、意志を持たない物に力を封印するんだけど………夜桜には、意志と言うものが無かった」

「えっ」

「?どうしたの、由姫ちゃん」

「あ、いえ、別に……」

由姫は「夜桜には意志がある」と言おうと思ったが、止めた。

なんとなく……言ってはいけない気がしたのだ。

「?………でね。神様はこう思ったの。意志を持っている自分が中に入れば………夜桜と一緒に力を封印できるんじゃないかって」

「あ…………だから、封印………」

「そう。けれども、管理人って言うのとは違う。管理人って言うのは、神様が夜桜の中にいる、とすれば……管理人は外にいる。2人で、1つの巨大な力を抑えてたの」

「そう、なんですか……」

「それは、何千年と続いてきた……。夜桜は、力を全て抑えられるわけでは無かったから、定期的に自分の力を全て外に出すの。簡単に言えば、呼吸ね」

「………じゃあ、もしかして、夜桜の開花って!!!」

「そう。夜桜が、力を定期的に出すものなの。もちろん、夜桜には意志がないから、神様が管理人からサインが出てるかどうかを確認して、夜桜を開花させるの」

「サインって?」

「花びらが、ほんのり赤くなるの。それをそのまま放っておくと、爆発とかしちゃうんだけどね。で、夜桜を開花させて……数分経ったら、また封印する。そんな事を、夜桜はずっと繰り返してきてたの」

――ああ、あの花びらたちはそう言うことだったんだ。

由姫は、少し疑問に思った。

その話が本当なら……。

「篠音さん。そんな事したら、夜桜の存在がばれちゃうんじゃ……」

「大丈夫よ。夜桜の開花は、半径1m以内にいないと、見れないから。その空間の中ではね、時間が止まるの」

「そうだったん、ですか……」

また、何かを思い出しそうになる。さっきよりも強く。強く。

けれども、それには波がある。

強くなったら、その後弱くなる。

また、その感覚は消えてしまった。

「……そうだ、篠音さん。力の与えどころを失ってるって話………どう言うことなの?」

篠音は、少し考えた。

「……えっと、夜桜の力が夜桜の中にいる神様と、管理人によって制御されてるって事は言ったでしょう?最後に夜桜が開花した日………その日に、全てが崩れたの」

「……どう言うこと…?」

「その日も、何も変えず、いつも通りに夜桜を開花させたの。けれど………誰も………神様と、管理人以外知っているはずのない夜桜の存在を………何者かが知っていた。そいつは……夜桜を自分の物にしようとして……管理人を殺したの」

「えっ………」

「けれども、中にはまだ神様がいた………だからそいつは、神様を中から出したの。力の与えどころを失ったって言うのは、そう言うこと。神様は、中から引きずり出されて………今、人間としてこの世界のどこかを生きてる。記憶は無いけどね」

「そんな………」



――…の言葉を、聞いちゃ…――



また、何かの声が聞こえた。

そして、何かを思い出しそうになった。


由姫は、気づき始めていた。

声には、心当たりがなくとも……思い出しそうになっている事については、ほぼ確証とも言えてきた。

「けれど、そいつは1つ間違いを犯したの。神様と管理人はあり得ないと信じたかったけれど、もし誰かに夜桜の存在を知られた場合を考えて………夜桜に、『呪い』の様なものをかけたの。その内容は……管理人と神様が死んだ場合、夜桜はすぐに開花を止める。そして、10年間決して開花することはない。そう言った呪いよ」

「そっか………そうすれば、悪用されることも………」

「えぇ。それに、そいつは封印のやり方を知らなかったの。だから、夜桜が自主的に封印を始めた時に………何の手出しも出来ず、ただ見つめるだけだった。………恨めしそうにね」

そこまで聞いて、由姫にはある考えが思いついた。

夜桜は、神様と管理人によって制御され、また、開花していたと言う事実。

そして、今はその神様と管理人がいないと言う事実。

そして、先ほど篠音が言っていた『暴走』……。

「篠音さん………もしかして、私たちがやろうとしてる事って……!!!」

「……えぇ。私たちの目的は、開花させる事だけれど……正確には、違う。夜桜を開花させて、夜桜の暴走を止めることなの」

由姫の中では、何かが繋がりかけていた。

ある、恐ろしい事実が頭に思い浮かんでいた。

「……夜桜の暴走って……なんなの?」

「………私たち、能力者を生み出すこと」

「能力者を……?どうして、そんな事を……」

「考えてみて、由姫ちゃん。夜桜は、世界を創り出す程の力を持つ存在………それはつまり、世界を滅ぼす力とイコールでしょう?神様は、その力が外に漏れないように定期的に呼吸をさせてきた。……しかし、今は違う。夜桜は、呼吸ができない状態にあるの。けれど、呼吸はしたい……。そこで、夜桜はある行動に出たのよ。元々、夜桜が呼吸したかったのは自分でも制御できない程の力をほんの少しの間だけでも出して、自由になれる時間が欲しかったから。なら………その、自分を呼吸させようとする力を………『外に放出させれば良いのではないか?』」

「あっ………」

「夜桜は力の全てを1人の人間に当てることは出来なかった。……けれど。ほんの少しなら、可能だった」

「じゃあ……私たちが今持っている、この能力って……」

「夜桜が持っていた……いえ、世界を創るために使われた力ね。神様が、夜桜に全て力を与えさえしなければ………こんな事は起こらなかったのに………」

「?篠音さん、何か言った?」

「い、いえ。何でもないわ。……とにかく、そんなわけで、今この地球には次々と能力者が生まれつつあるわ。そして、夜桜の中に残っている力は………最初の頃の、半分以上」

「そっ、そんな………」

「このまま、残りの力が全て能力者として誕生したら………世界を創り出した力が、バラバラであっても集結したようになる。そんな事になれば………」

「世界は………滅ぶ………」

「…………」


由姫は、その事実に驚いてはいた。

しかし、なぜだか、前からその事実を知っていたような感覚に陥る。

それに、さっきから、ずっと声が聞こえる。


聞いちゃダメだって。

思い出しちゃダメだって。

今すぐ、その場から離れてって。

なんで?どうして?

私は………この悲劇を止めないと、いけないでしょ?

「…………由姫ちゃん。あなたは、もう気づいてるかもしれない。ある、真実に」

「…………」

「夜桜の開花って言うのは、夜桜に力が入れられる前に戻すことだった」

「…………」

「そして、それを行うとき………周りには、結界が張られるそうよ」

「…………」

「ねぇ、由姫ちゃん。この2つの能力………覚えはないかしら?」

「…………」

「……これは、紛れもない事実よ。その、いなくなった神様は、人となった。そう――」

「…………」


「葉桜由姫と、神城咲と言う、2人へと姿を変えた」


――ずっと、ずっと。気づいていた。

物心ついた時から、夜桜を見ると、何かを思い出しそうになっていた。

引き寄せられるような感覚だった。


母親に、夜桜の事を聞いてみたことがある。

母は昔、市の職員で、夜桜を担当していた。

母は、そこまで詳しいことは教えてくれなかった。

しかし、こう言っていた。


『昔はね。夜桜の側には神様がいたのよ。けれど、ある時。神様は、いきなり自分の姿を2つに割って………それぞれを人の形へと変えたそうよ。だから、今、この地球には神様がいるんじゃないかって言われているのよ』


そう言われた時、心には確証の様な物が生まれつつあった。

しかし、自分は母から生まれた。

だから、そんな事はあり得ない。

そう、信じていた。

それから、何年か過ぎた頃。

そんな事を忘れかけていた私は、揺らがない確証を得てしまった。


母子手帳が急に必要となり……しかし、在処を知っている母は出かけていたので、私が探していた。


………見たくもなかった。


母の子は、生まれた数日後になくなっていた。

名前も、全く違かった。

また、そこには、そのショックで父も死んだらしい。

そこで、思った。


『なら、私はどこから来た?』


そこで、結論には至らなかった。

しかし、今日篠音さんの話を聞いてわかった。

繋がった。

私が――夜桜を管理していた、神様なんだ。


「………夫?……ちゃん。大丈夫?」

「えっ、あっ、はい?」

「良かった。ずっと下向いてたから心配になったのよ」

「あ、心配かけましたよね。すみません、篠音さん……」

「良いのよ。急に言われて、戸惑ったでしょう?」

「ま、まぁ……」

「私もね。夜桜の真実について知ったとき、そんな風になったわ。私……家柄が嫌いで、嫌いで。嫌で仕方がなかった。だから、能力を手に入れた時は、すごく嬉しかったの。ほんの少しだけでも……長谷川家と違うんだって思えた。……けれど、この能力は夜桜によって、仕方なくもたらされたんだって知ったら………もし、もし。神様と管理人が今も生きていたら………きっと………私は………」

由姫はそこで、篠音をぎゅっと抱きしめた。

篠音の辛さが、よくわかったからだ。


そして、決意をした。


「………篠音さん。私に、夜桜の開花をさせてください」

「由姫ちゃん………良いの?」

「たぶん、しなきゃダメなんです………私が、夜桜に封印されようが………これは、やらないと………」

「…………わかったわ。あなたの、好きに………しなさい」

「……ありがとう、篠音さん。……管理人はどうするの?」

「………管理人に関しては、実はいてもいなくても変わらないらしいわ。……あなた1人では苦しいだろうけれど………お願い」

「……はい……」




由姫は、夜桜の前に立ち、祈りの姿勢をとり、頭に浮かんでくる言葉を唱えた。



「………我に答えよ、夜桜。お前の主は、私だ。私に力を委ねろ。もう………1人で、苦しもうとするな。これからは、私がずっと…………一緒だ」



夜桜は眩く光り始めた。


桜が、咲き始めた。



その時、聞こえた。はっきりと。



――夜桜を開花しないで!!!!開花すれば、奴らの思い通りになる!!!!――



しかし、由姫は、立ち止まらなかった。






          END

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