第7話 棚位置把握《ロケーション》Ⅱ
魔導書が床に散らばっている場所まで戻ってきた。
さぁ、仕事の再開だ!
俺は近くにある本に手を伸ばした。
〘スキルは発動されないのですか?〙
「俺が持ってるスキルほとんどパッシブ型だから。魔導書を手に持たないと発動しないじゃん」
〘あっ〙
リアってちょっと、うっかりしてるところがあるよな。その方が親しみやすくて、俺は好きだけど。
「それから今の俺のスキル構成だと、こういうのは勘で選んだ方が良いと思う」
直感でこれだと思う魔導書を手に取ってみた。
その瞬間──
司書スキルの【棚番把握】と【類似把握】、【識別】が発動する。
手に取った魔導書の少し上に、この本が帰るべき棚とジャンルが表示されている。棚番号はKE0013、ジャンルは水魔法だった。
〘おー! これは当たりですね。KE0013はここからかなり近い棚ですよ〙
「狙い通りだね」
〘この結果になると、わかっていたのですか?〙
「だってほら、俺には【幸運】があるから」
〘なるほど! これはスキルの効果なのですね〙
【幸運】は本来、狙って発動させることができないスキルだ。しかし自分の行動に『偶然』という要素が入り込むようにすることで、スキルの発動を誘発することができる。
さっきの事例で言えば俺はその場にある魔導書を何となくで選択した。これが偶然という要素になる。
「まだまだ、このスキルの効果は続いてるよ」
俺は周囲を見渡し、ぼんやり輝く魔導書を4冊回収した。これは【類似把握レベル1】の効果で光っている本たち。
最初に手にした魔導書と合わせて5冊を抱えた。
その時の順番も特に意識せず偶然に身を任せる。
「さぁ、魔導書を返しに行こう」
〘えっ。返却する順番などは考えられないのですか?〙
「大丈夫」
改めて抱えている魔導書に目を落とす。
特に積み方は意識していなかったのだが、一番上になっていたのは最初に手にした棚番がKE0013の魔導書だった。
さっそくその棚がある列に向かって歩き始める。
手前から13番目の棚なので、【速度向上】を発動させるまでもなく、すぐ目的地に到達することができた。
光が指し示す場所へ、魔導書を差し込む。
今回、俺の身体は光らなかった。
魔導書返却でスキル獲得できなかったのは初めて。
〘あらら……。【幸運】が発動していたはずですのに、残念です〙
リアの声は分かりやすく落ち込んでいた。
でも俺に焦りはない。
俺はすでに5つのスキルを手に入れている。
そんなに連続で獲得できないことも想定済み。
大量の魔力を放出して魔導書を召喚し、新しい魔法が使えるようになるまで繰り返してきた試行錯誤に比べたら、この程度のことは苦労とも呼べない。
「次に行くよ」
重ねて複数を持っていると、スキルは発動しないみたい。俺は4冊重ねていた一番上の魔導書を手に取る。
棚番号はKE0014。
なんと隣の棚だった。
「いや、【幸運】の効果凄すぎるだろ」
期待以上の成果だった。
隣り合う棚に連続して魔導書を返却する、というのも何らかのミッションになっている可能性が高い。俺は少しワクワクしながら、魔導書の光が指し示す6段目の開いている箇所に魔導書を差し込んだ。
俺の身体が輝きだす。
よしっ!
司書スキル獲得だ!
〘おめでとうございます、ライアン様。隣り合う棚に連続して魔導書を返却するというミッションを達成されましたので【棚位置把握レベル2】を獲得です〙
【棚位置把握】?
なんでレベル2?
「そんなスキル、俺はまだ持ってないはずだけど」
〘【棚位置把握】というスキルは、魔導書が輝いて帰るべき棚の位置を指し示すスキルのことです。レベル1はライアン様がここへ来られた時に、必須スキルとして最初から付与されたのです〙
「なるほど。そのスキルのレベルが上がったってことね」
何ができるようになったのか試してみよう。
5冊持ってきたうちの3冊目の魔導書に手をかける。
先程までと同じようにぼんやりと輝くその光が若干強くなっている気がした。ただその光は、これまでより短い。
「光りが見やすくなってる。それからこれは……。距離が分かるようになったのか」
【棚番把握】によると、この魔導書の棚番号はKE0214。光の長さで返すべき本棚までの距離がだいたい分かるようになった。
KE0214という本棚はここから少し離れるが、同じ列なので返却しやすい。
ちなみに本棚の並びは500個おきに他の列へ移動できるような造りになっているから、列を間違えても大広間まで戻る必要はない。
いいね、順調だ。
【幸運】が有能すぎる。
リアもこれは数多の司書スキルを得た上で、ご褒美として準備されていたものだろうと言っていた。それだけ貴重で凄いスキルだということを改めて実感する。
「次の場所は少し離れてるから【速度向上】を使おうかな」
左右に本棚があって少し怖い。身体の向き調整をミスれば、超高速で棚にぶつかる可能性がある。当たっても怪我ははずなんだけど……。
どうしても恐怖は拭い去れない。
自身が英霊であるということを改めて強く意識すれば痛みをなくすことはできる。でも唐突な衝撃に対して俺は当然の反応として痛みを感じてしまうだろう。
いや。俺がこんなことで怖がっていたら、あの大量の魔導書たちを全てあるべき場所へ戻してやることができない。
怖くてもやるしかないんだ。
脳内でスキル名を強く意識しても発動できるが、俺は覚悟を決めるためにもあえて口に出した。
「【速度向上】!」
大量に並ぶ棚が次々後ろへ流れていく。
数秒で俺は移動を終えた。
どこにも身体をぶつけていない。
「うまくいって良かった」
〘少しでも体が傾けば意図しない方向へ進んでしまうスキルです。危なそうであれば止めようとも思っていましたが、今回の角度調整は完璧でした。進行方向を強く意識して視線をしっかり固定していたのが良かったのだと思われます〙
いいね。その分析いいよ。
すっごい助かる。
進行方向を意識して視線を固定、ね。
「さてと、棚番は」
真横の本棚の上部にはKE0210の文字。
目的はあと4個先の棚か。
距離の調整も結構うまくいったな。
着実に【速度向上】を使いこなせるようになってきている。司書スキルを獲得するということだけではなく、獲得したスキルを上手く使いこなせるようになるという成長にも喜びを感じる。
この調子でどんどん司書スキルを獲得して、さらにそのスキルをうまく使いこなせるようになっていこう。
そんなことを思いながら俺は、4つ先の棚へ向かって歩き始めた。




