第3話 魔導書完全解放の証
「戻ってきたぁぁ!!」
最初に目を覚ました大広間に帰ってくることができた。本棚の間の通路はずっと真っ直ぐなので迷うわけもないが。
ただあまりにも真っ直ぐで、帰り道には行先を示してくれる魔導書は手元にない。
そのためふとした瞬間に自分が進んでいるのか、戻っているのか分からなくなる時があった。その度にリアが注意してくれるので、なんとかなった。
棚の番号があるので間違えるわけないと思っていたが、そんな甘いものではない。
人は何らかの指針がないと、容易に道を見失う。そんなことを身に沁みて理解した。
〘お疲れ様です〙
「うん。リアのおかげで帰ってこれた。これからも、俺のそばから絶対に居なくならないでね」
姿が見えない彼女に対して、そばにいる──という表現が正しいのかはわからないが、少なくとも俺にはリアが必要だった。
〘承知しました。私はこれからもずっと、ライアン様の呼びかけにお応えしますよ〙
「ありがと。それじゃ、さっそく次の魔導書を返しに行こう。スキルでここから近い棚を探せるんだから、楽に──」
近くの床にあった魔導書に触れた瞬間、俺は思考が停止した。
これだけの本があって、そんな偶然はあるわけない。そう思っていた偶然が起こってしまった。
〘あらら⋯⋯。これは凄い引きですね〙
どうやらリアにも、【棚番把握】の結果が見えているようだ。
その結果とは──
「KU2613って書いてある」
〘書いてありますね〙
「これってさ。もしかしてだけど」
〘えぇ。つい先ほど、ライアン様が魔導書を戻された棚です〙
ですよねぇぇぇぇえ。
ここで、特に何も考えていなければ直ぐにこの魔導書は手放して他の棚番が若い魔導書を探す。その方が、普通に考えれば効率が良いからだ。
しかし魔導師として、魔導書で新たな魔法が使えるようになる条件の探求を続けてきた俺の勘が告げている。
この魔導書を棚に戻せ──と。
リアがスキルを得るには、様々な条件があると言っていた。
俺の考えでは、その条件のなかに『連続で同じ棚に魔導書を戻す』というミッションもあるはず。というか絶対にある。
単純に図書館で本を棚に戻すという行為を考えた時、特殊な行為とできそうなことなんてある程度絞りてくる。
強いていえば、『1冊の本を棚に戻す』というのが最初のミッションであったなら、初回のミッション達成時の条件に被さるような条件はきっと返却行為としてのレアリティも高くなるはず。
そしてそのミッションは別の本に触れた瞬間、キャンセルされてしまう可能性がある。
だから俺には、手に持つ魔導書を返却しに行くという選択肢しか存在しなかった。
選択肢はないのだが⋯⋯。
身体が反転しない。本棚に向かわない。俺の思考は『この本を返しに行け』と言っている。しかし俺の身体は、それを拒否している。
時計がなく時間の分からない中。進んでいるのかどうかも分からなくなるような通路をただ真っ直ぐ長時間歩くという行為を、またやらねばならない。
〘別の魔導書にしますか?〙
俺が魔導書を手にしたまま動かないでいると、リアが心配そうな声色で話しかけてくれた。
その声を聞いて、決心がついた。
「いや。この本にするよ。同じ棚に連続で魔導書を戻すって行為は、またスキルがもらえそうだからね」
自分に言い聞かせるように宣言し、俺は先ほど通ってきた通路へと歩を進めた。
──***──
およそ1時間後。
「へいへいへい! また来てやったぜ!」
リアと色んなことを話していたら、思っていたより早くついた。
俺の目の前にはKU2613の本棚。
先ほど返却した魔導書は、俺が差し込んだ場所にまだある。今回はその1段上の空いた所を魔導書の光が指しているので、そこに差し込もう。
「創造神様、お願いします。ここまで頑張ったんです。だから俺に、何か司書スキルをください!」
歩いただけと言えばそうなのだが、これから俺の体感時間で死ぬまでここで司書として過ごすんだ。最初くらい気前よくスキルをもらいたい。
本棚に魔導書を差し込んだ。
その瞬間──
俺の身体が何度か光った。
明らかに初回とは違う反応。
〘おめでとうございます! ライアン様は、複数のスキルを獲得されました〙
「よしっ!!」
全身で喜びを表現する。
俺は、賭けに勝ったんだ!
「リア。俺がゲットしたのは、どんなスキル? 俺はどんなミッションをクリアしたの?」
〘ライアン様が今回獲得されたスキルは4つです〙
4つも!?
それは嬉しい誤算だ。
〘まずひとつ目、2冊連続で同じ棚に魔導書を返却するというミッションを達成しましたので、【類似把握レベル1】を獲得されました。これは類似の魔導書を探せるスキルです〙
「便利そうだけど、レベル1って?」
〘申し訳ございません。その情報は開示されていません〙
なるほど。
使ってみるしかないか。
試しに棚にある魔導書を手にしてみる。
しかし何も起こらなかった。
「何も起きない。もしかして、ハズレ?」
ハズレスキルとかあるの!?
〘創造神様が意味のない司書スキルを用意するとは思えません。可能性としては⋯⋯。そうですね。少しその魔導書を持ったまま、移動していただけますか?〙
「わかった」
リアに言われた通り、魔導書を手にした状態で通路を歩いてみる。
しばらく歩くと、その場所から3つ先の棚で微かに光る魔導書を見つけた。
「もしかして、これが類似の魔導書なのかな?」
〘えぇ、そのようです。これらはどちらも、火属性魔法の魔導書です〙
そんな魔導書は他にもあるだろ。
〘特徴としては、著者が同じですね〙
「えっ」
魔導書って、著者がいるの!?
普通の本であれば、それを書いた人がいることを俺は当然知っている。表紙に著者が書かれることが多い。
「俺は魔導書の著者がいるなんて考えたこともなかった。それらしい表記を見たこともない」
〘そうでしょう。著者を知るというのは、その魔導書のすべてを解放した証なのです。まだ魔導の歴史が浅い今の世界では、誰一人成し得ていないこと〙
魔導書をすべて解放すれば、著者がわかる?
そ、それって。
ものすごく大事な情報では?
この時の俺は、元いた世界では誰も知らない情報に触れ始めているのだということを漠然と理解し始めていた。しかし、ただそれだけだった。
魔導書をすべて解放すれば、著者を知れる。その逆もあり得るということを、この時点では考えもしなかったんだ。




