第2話 時間のズレ
「分かっていたけど……。遠いっ!!」
今は大広間に向かって本棚の間を歩いている。
1冊目を返却するために1時間以上歩いたので、広間に戻るにも1時間以上かかってしまうのも当然といえば当然である。
〘司書スキルの中には移動を楽にしたりするものもあるはず〙
「へぇ。それは是非とも手に入れたい」
〘新たなスキルを得られるよう頑張りましょう〙
「そうだね。まずはさっきゲットした【棚番把握】で、大広間から近い棚に戻していくつか司書スキルを獲得したいな」
複数の司書スキルを得られれば、どんな行為でどんなスキルがもらえるかの傾向が掴めるかもしれない。
そんなことを考えていたのだが、ここでふと別の疑問が浮かんだ。
「俺は1冊戻すのにかなり時間かけてるけど……。これって俺が元いた世界で問題にならないの? 本棚にないと魔導書が召喚されないんだよね? 俺は連続で魔導書を呼ぶことがあったから、あっちで困ってる人もいるんじゃ」
あまり意味がないと思うが、少しだけ歩みを早めてみる。
〘ライアン様は真面目な御方ですねぇ。ご安心ください。貴方様がいらした世界とここでは時の流れが違うのです。通路と書棚の中でも更に時の流れが変わる。だから急ぐ必要はありませんよ〙
「そうなんだ。仕組みとか良く分かってないけど、少なくとも俺が魔導書を本棚に戻す作業をやってさえいれば問題ないって認識で大丈夫?」
〘えぇ。その通りです〙
リアにそう言われ、少し安心した。
終わりが見えない作業。でも急ぐ必要が無いというのは気が楽になる。そうしてひとつの懸念点が消えたところで、別の疑問が振ってきた。
「てかこの図書館、なんでこんなにデカいんだよ。俺の世界の魔導士人口からして、こんなに魔導書存在するわけないだろ」
基本的に1冊の魔導書では1系統の魔法のみ使用できる。例えば火属性の魔法を使いたいなら火属性の魔導書と契約をする。俺は12種の攻撃魔法や、細々とした生活魔法など全部で37冊の魔導書と契約を結んでいた。
誰かと契約を結んでいる魔導書が、他の魔道士に使われることはないらしい。
魔導士としてそこそこ強かったはずの俺が37冊しか使っていなかったんだ。にもかかわらずここには何万、いや幾千万もの魔導書があるように思える。
どう考えたっておかしい。
「ここの魔導書って本当に全部使われてるの?」
〘いいえ。全ての本が誰かと契約済みというわけでなありません。契約者が現れず、眠ったままの魔導書も多くあります。そうした本は召喚されることもなければ、勝手に本棚から落ちることもありませんのでご安心ください〙
「……じゃああの広間で散らばっているのは、契約者がいて返却されてきた魔導書なんだ」
〘そうなります。ライアン様も、一度の戦闘で魔導書を何冊か切り替えて戦うことがあったでしょう。そのようなことを複数人がされますと、魔導図書館司書の仕事が増えるわけです〙
「ご、ごめんなさい!」
こんなことになってると思ってなかったから、俺は全く気にもせず魔法を使いまくっていた。
〘ライアン様を責めているわけではありません。通常時であれば、私の力で魔導書の返却は問題なく行えていましたので。ただ戦争が頻繁に起こると、多少の遅延があったのは確かです〙
リアの言葉で気になることが2点。
「さっき言ってたけど、リアが魔導書の返却が出来なくなって俺を召喚した原因って何なの? 確か諸事情で力を使えなくなったって」
〘メンテナンスです〙
「メンテナンス?」
〘この世界を創られた創造神様が、私の機能を調整中なのです。そのため私は現在、本来の機能の1沙ほどしか行使できません〙
「1沙ほどって……。どんくらいよ」
〘気の遠くなるほど無数にある細かい砂のうちの1粒、と例えられるくらいです〙
良く分かんないことが分かった。
「もう1個質問。戦争が頻繁に起こるとリアでも対応が遅れるって言ったね。ちなみに俺が死んだ後に戦争が起きたとかで、あの大広間の惨状になってたりする?」
〘いいえ。そのようなことはありません。ライアン様がお亡くなりになられてから、まだ1日ほどしか経過していませんよ〙
マジか。
平常運転でアレなんだ⋯⋯。
リアは時間の流れが違うって言ってた。俺の作業が遅くても問題ないってことは、俺がここで過ごす時間のほうが圧縮されているはず。
つまり俺がここで過ごす1000年より、元いた世界での1000年のほうが圧倒的に長い。仮に元の世界では10年くらいになるって圧縮率だとしても、安心はできない。
あの世界、俺が死ぬ直前はかなり不安定な情勢だった。世界中で小競り合いが起き、魔物の暴走だってあった。魔物に襲われて防衛力が弱体化した小国が、別の国に攻められて滅びることなんてよく聞く話。
リア基準で言えば、あの状態でも戦争が頻繁に起きていなかった判定。
では、本当に不安定な世界中が全体的に戦争に向かったら──
いや、止めよう。
今は考えないでおこう。
それよりも優秀なスキルを身に着け、効率よく魔導書を本棚に戻せるようにすることを考えよう。
そうしておけば、もし本当に世界を巻き込む大戦争が起きたとしても対応できる可能性が上がる。
よし、やろう。
俺は歩く速度を上げて広間へと向かった。




