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魔導図書館の最強司書 〜魔導書を1000年管理したら、【司書スキル】で最強に〜  作者: 木塚 麻弥


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第1話 1000年ミッション

 

「……こ、ここは?」


 俺は魔物に殺されたはず。


 覚えているのは暗い森と、真っ赤に染まる視界。



 でも俺は今、図書館の中にいた。


 ここは図書館、だと思う。というのもたくさんの本棚があり、そこに本が並んでいるのだから普通はそう考える。


 しかしこの場所は──


 あまりに規模が大きすぎた。俺が今いる場所は図書館の大広間なんだろう。この広場の左右には見上げるほど高い本棚が列をなしている。ここからでは本棚の奥が暗くてよく見えないが、ずっと先まで続いているみたいだ。


「いや、魔導書を読むのは好きだったけど……。これが、死後の世界?」


〘おはようございます。ライアン=フォレスト様〙


 脳内に響く、透き通るような女性の声。

 その声が俺の名前を呼んだ。

 

「お、おはようございます」


 なぜか自然と返事をしてしまう。


〘早速ですが、あなたは死にました〙


「……はい。そのはずですよね」


 じゃあ今の俺は何なんですか?

 というか──


「まず、あなたは誰ですか?」


〘私はこの魔導図書館の疑似人格のような存在──と自己紹介しておきましょうか。私はライアン様をサポートするために創られました〙


 疑似? 何もわからん。

 

「魔導図書館って? 見たところ、散らばっているのは全て魔導書みたいですが」


 整然と並ぶ本棚には無数の本が収納されている。そして俺が今いる付近の床には、大量の本が乱雑に置かれていた。その全てが魔導書。


 魔導書ってのは、魔法を使うために必要なもの。使用したい魔法系統の精霊と契約し、魔法行使の際は魔力を放出すると、どこからともなくやってきて手元に収まる。


 ちなみに一度契約した魔導書は、魔力を捧げれば魔法使用時でなくても召喚することは出来る。そうして呼び出し、新たな魔法が使えるようにならないか研究が進められていた。


 もしかして、あの魔導書ってここから──


〘ライアン様は魔導士ですよね? であれば魔導書も使っていたでしょう〙


「はい」


〘その魔導書は全てここ、魔導図書館である私の元から召喚されていました〙


「やっぱりそうなんですね」


〘理解が早くて助かります。魔導士は魔導書と契約をすることで魔法が使える。魔法を使う際は、必ず手元に魔導書を召喚する必要がある。ここまでは良いですね?〙


「はい」


〘では、貴方たち魔導士が魔法を使い終えたあと、魔導書はどうなるでしょうか?〙


「えっと……。いつの間にか手元から消えています」


〘でしょうね。その程度の認識なんでしょうね〙


 なんか棘のある言い方だった。


〘その手元から消えた魔導書は、ここに戻ってきます。しかし返ってくるときは、直接本棚へ戻るわけでは無いのです〙


「そうなんですか。……あぁ、だからこんな風に魔導書が床に」


〘ちなみにこの図書館から魔導書が召喚されるには、それらが本棚に並んでいなければなりません〙


「えっ。つまりこの床に散らばっている魔導書は魔導士が召喚出来ず、魔法もつかえないと」


〘そういうことです。これまでは私の力で魔導書を棚に戻していたんですが、諸事情でしばらく力が使えなくなっているんです。だからこの有様でして〙


「……もしかして、この魔導書を棚に整列させるために、俺をここへ?」


〘んー! 素晴らしい! 頭の回転が速い人は私、好きですよ〙


 マジかよ。

 《《これ》》を? 俺ひとりで?


 床に散らばっている本は数えきれない。そもそもこの床が、どこまで続いているのかもわからないくらいなんだ。


〘顔色が悪いですね。大丈夫ですか?〙


「作業の終わりが見えなくて、ちょっと眩暈めまいが」


 どう考えたって終わるはずがない。


 でも、やらないという選択肢はない。

 俺は魔導士だったから。


 最期はあっけなく死んでしまったが、魔物との戦闘では魔導書のおかげで俺は何度も命を救われた。そんな謂わば相棒とも呼べる存在が、床に散らばっているのは放っておけない。


 俺が使っていた魔導書じゃないってことは分かっている。でもこいつらは、俺以外の魔導士たちの命を繋ぐ大切な本なんだ。


〘私はずっと待っていました。長期のお仕事にも耐えられる強い精神を持ち、私のお願いを聞いてくれそうな魂の綺麗な人をずっと待っていたんです。あなたの魂を見つけられるのが遅くなっちゃって、今はこんなことになっています〙


「てことは、なるべく早く本棚に戻してあげないといけないな」


〘あれ? まだ何の報酬も提示していないのに、どうして片づけをしてくれる気になったんですか?〙


「報酬をもらえるの?」


〘もちろんです。今から1000年ここで魔導書の整理をしてくれたら、貴方を転生させてあげます。残念ながら、元の時間軸で生き返らせてあげることはできませんが〙


 ……1000年ね。


 それってつまり、死ぬまで無報酬で働けってことだろ? もう死んだはずの俺が、またここで死ぬのかは不明だが。



「わかりました。その条件を承諾します」


 既に対価はもらったようなもの。

 俺がこれからするのは魔導書への恩返し。


 どこまで出来るか分からないけど、人のために働くのは嫌いじゃないんだ。


〘ありがとうございます。ではさっそく初仕事をお願いします。まずは足元に落ちている魔導書を手にとってください〙


「こう?」


 一番近くに落ちていた本を拾う。魔力を放出していないのに、手元に魔導書があるというのは始めての経験。なんか新鮮な感じがする。


「これを、どこに持っていけば──」


 魔導図書館に聞こうとしたら、俺が手に持っている魔導書がぼんやりと輝き出した。そしてその光の一部がわずかに伸びる。


〘光が伸びている方向に、その本が返るべき棚があります〙


「なるほど」


 俺は光が伸びる方向へ歩き始めた。



 ──およそ10分後


「結構歩いたけど……。まだかな?」


〘まだ先です〙


 魔導書から伸びる光はずっと同じ長さのまま。

 目的地がどれだけ離れているかなども不明。


 途方もない作業であることは分かっていたつもりだ。でも最初の一冊からこんなに終わりが見えないなんて。



 ──更に20分後


「え、えっと」


〘まだまだ先ですよ。頑張ってください〙


 死ぬ前に持っていたはずの魔導時計は手元にない。だから正確な時間は分からないが、体感で30分以上は間違いなく歩き続けている。


 それなのに魔導書の光は通路のずっと先を指していた。


 

 ──それから更に30分後


「こ、ここかぁぁああ!」


 魔導書の光が、ひとつの棚を指し示していた。


 その棚の空いている箇所に魔導書を差し込む。


〘おめでとうございます。最初のミッション完了ですね〙


「これで、やっと1冊目」


〘1冊の本を棚に戻すというミッションをクリアしたので、司書スキルが得られます。今回ゲットできたのは──。じゃん! 【棚番把握ナンバー】です〙


 俺の身体が、少しの時間ぼんやりと輝いた気がする。


「司書スキル? ナンバー?」


〘本棚の一番上の真ん中を見てください〙


「KU2613って書いてある」


〘それが棚番です。魔導書が返って来る広場に近いところが1番目の棚なので、ここは2613番目です。KUは列です。この後ろ側の本棚はKVってなっているでしょう〙


「てことはこの本棚はKUだから、えっと」


〘151列の2613番目ってことですね。スキルを使えば、それが分かるようになるんです。便利でしょう? ちなみに魔導書を手にすれば自動でスキルが発動します〙


 試してみることにした。


 本棚から1冊の魔導書を取ってみる。すると魔導書の少し上に文字が浮かび上がった。それは目の前の本棚の上部に示された棚番と一致している。 


「確かに便利なんですけど……。最初から司書スキルをもらうことってできないんですかね?」


 広場に散らばっていた何千冊という魔導書。聞いた話から推測すると、返却される魔導書は今後も増え続けるはずだ。


 であれば効率よく返却するスキルがあるなら、今すぐ全部欲しい。


〘無理です。私もスキルも魔導書も、全て創造神様が創られました。ここで一定のミッションをクリアすると司書スキルが得られるというルールも創造神様が定められたのですから、それを変えることなどできません〙


 創造神様が決めたことなんだ。


 俺は教会関係者じゃないので日頃から創造神様に祈ることはしなかった。でも魔物との戦いで大怪我をして、教会で治癒してもらったことはあるから創造神様の存在は信じているし感謝もしている。


 だから大人しくルールに従うことにした。


「わかりました。魔導書を本棚に戻せば司書スキルがもらえるんですよね。先ほど『今回ゲットできたのは』って言ってましたが、2冊目では別のスキルがもらえたりするんですか?」


〘司書スキルの解放条件は開示されていません。その種類や総数も現時点では不明です。ただし司書スキルがたくさん存在するということは把握しています。そしてライアン様が獲得された司書スキルに関しては私が詳細を知ることができるようです〙


 そうなると検証が必要だな。

 2冊同時に返却するとかを試そう。


 なんだかちょっとワクワクする。


 俺は始めて魔導書を手にしたときの感覚を思い出していた。


 魔導書と契約し、何回か使うと魔法レベルが上って使える魔法の種類が増えたり、魔法の威力が上がる。強い魔物を倒すことで使用可能になる特殊な魔法もあった。


 強くなりたくて、いろんな検証をしてきたんだ。



〘今のライアン様は、良い顔をしていますね〙


「そう? まぁ、そうかも。俺、こーゆー作業が好きかもしれない」


 大変な作業であることは間違いない。

 しかしやればやるほど得られるものがある。


「魔導図書館、さん? えっと、なんて呼べばいいかな?」


〘創造神様は私に名を付けませんでした。ですので、ライアン様がお好きなようにお呼びいただければ結構です〙


「そっか。じゃあ……。リアとかどう?」


〘リア、良いですね。それでは今後、私のことはリアとお呼びください〙


「はーい。それじゃリア、俺は広場に戻って次の魔導書を取りに行くよ」


〘承知いたしました。私は現在、魔導書返却のお手伝いをすることができません。しかしライアン様の話し相手になることはできます〙


 それは非常に助かる。

 

 見たところ、この広い図書館内に生き物は俺だけ。さっきのリアの説明だと、ここで働くには長期の仕事にも耐えられる精神力と、魂の綺麗さが必要らしい。俺が本当に適合できているのかは謎だが……。簡単に同僚ができるとは思わないほうが良いだろう。


 そう考えれば、この先ひとりで何年も仕事をしていくなら話し相手は絶対に欲しい。姿が見えなくても、ただ黙々と作業するより司書スキルに関する考察を聞いてもらったりするだけでも気が楽になると思うんだ。



「これからよろしくね、リア」


〘こちらこそよろしくお願いします。ライアン様〙


 次はどんな司書スキルを得られるのか秘かに期待しながら、俺は広間に向かって歩き始めた。

 

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