第17話 復元《リペア》
リアに宣言した通り、俺は【神速】で魔導書を返却し続けた。
ただ何も考えずに返却するんじゃない。極力【幸運】が発動するように偶然の余地を残しつつ、まだ未達成のミッション内容を模索していく。
その結果──
〘おめでとうございます。3000番台の棚に連続で10冊の魔導書を返却するというミッションを達成されましたので、【識別】のレベルが上がりました〙
〘おめでとうございます。同じジャンルの魔導書を100冊連続で返却するというミッションを達成されましたので、【無重書架】のレベルが上がりました〙
〘おめでとうございます。移動スキル発動中に累計1000冊の魔導書を返却するというミッションを達成されましたので、【投擲収納】のレベルが上がりました〙
〘おめでとうございます。累計5000冊の魔導書を返却するというミッションを達成されましたので、【魔導栞】のレベルが上がりました〙
〘おめでとうございます。最上段の棚に連続で50冊の魔導書を返却するというミッションを達成されましたので、【踏台不要】のレベルが上がりました〙
〘おめでとうございます。物音を立てずに魔導書を100冊連続で返却するというミッションを達成されましたので、【静寂領域】のレベルが上がりました〙
〘おめでとうございます。移動スキル発動中に累計5000冊の魔導書を返却するというミッションを達成されましたので、【投擲収納】のレベルが上がりました〙
〘おめでとうございます。累計1万冊の魔導書を返却するというミッションを達成されましたので、【魔導栞】のレベルが上がりました〙
スキル獲得し放題の状態になった。
ほとんどは既に所持している司書スキルのレベルアップだけだったけど。
ただ中には、新たな要素もあった。
〘おめでとうございます。魔導図書館の最遠部4か所の棚に魔導書を返却するというミッションを達成されましたので、【見習い司書】の称号を獲得しました〙
「称号? 新しいね。というより、このクソ広い図書館の最果てまで魔導書を返しに行けるようになって、まだ俺はビギナー扱いなんだ……」
逆に考えれば、それだけスキルなどの成長要素が残されているということ。【検索】と【神速】を手に入れた俺にとって、今やここでの不可能は無いと思っていた。
〘ライアン様が【見習い司書】となりましたので、これまで封印されていた司書スキルが解放されます。既に累計1万冊の魔導書を返却するというミッションも達成していますので、司書スキル【復元】を獲得されました〙
封印を解いた上で更にミッションの達成が必要なスキルがあったんだ。
「リペアってことは、魔導書を修復するスキル? でも今のところボロボロな魔導書とかは見たことないけど」
〘休息室とは逆の壁へ向かっていただけますか?〙
「りょーかい」
なんで──とか理由を聞く必要はない。【神速】があるので、意識するだけで俺は直ぐその場所へ行くことが出来る。あとリアは無駄な指示は出したりしないから。
一瞬で移動が完了する。
〘ご移動、ありがとうございます。壁に触れてみてください〙
彼女に言われた通り、壁に手を当てる。
すると巨大な扉が現れた。
反対側にある出入口とされる扉よりは小さめだが、人間が使うようなサイズでないことは明らかだった。
その扉が静かに開いていく。
「こ、これは」
扉の先には広く、薄暗い部屋があった。
その部屋の中央に数百冊の魔導書が乱雑に積まれている。
「……そういうこと。破れたり、濡れたり、燃えたりしてる魔導書が全然ないなって思ってた。こうやって返却時に分けられてたんだ」
〘はい。その通りです〙
「なんでこの部屋のこと、教えてくれなかったの? リアの知識にもなかった?」
〘いえ。私は傷んだ魔導書たちの所在を把握していました〙
「じゃあ、なんで!?」
知っていたら、俺はこいつらを放ってなんかおけなかった。
〘誠に失礼ながら、ライアン様にその資格がなかったからです〙
「資格って……。魔導書を修繕しようとするのに資格なんていらないだろ」
〘必要です。魔導書は魔素を含んだ特殊な紙に、特殊なインクで文字や記号が書かれることで作られております。仮に通常の書籍のように修繕したところで魔法は発動しません。修繕ではなく、復元が必要なのです〙
そ、そうなんだ。
知らなかった。
「魔導書って、意図的に傷つけられそうになると、それを召喚した魔導士の手元から消えていく。だから俺はボロボロになった魔導書というのを見たことがない」
〘さすがはライアン様。よくご存じですね〙
「勘違いしないでほしいんだけど、俺は魔導書で色んな検証をした。でも破ったりしようと思ったことは一度もないからね。あくまで他の魔導士がそうしようとしたのを見たことがあるってだけ」
〘はい。それは私も、良く存じております〙
リアは俺を信じてくれるみたい。
ちょっと安心した。
彼女には誤解されたくないって想いが強くある。
「普通は意図的に破ったり出来ないはず。それじゃ、ここにある魔導書はどうしてボロボロなの? こんなひどいことを誰がやったの?」
〘こうなったのは魔導書たち自身の意思です〙
「えっ」
〘通常、魔導士が魔法を使った戦闘をする時、召喚された魔導書は自身への被害を予知した瞬間にこの魔導図書館へ帰還します。魔導書が被害を予知するというのは、魔法の押し合いで魔導士が負けたということを意味します〙
……へぇ。そうなんだ。
俺はあまり経験がないな。
勇者様の護衛を任されるくらい、国内では強い方だったから。
〘魔導士が負ける時、簡単には帰ってこない変わり者の魔導書たちがいるんです。彼らは契約者のことを気に入り、死の直前まで力になろうと尽力して──〙
「逃げ遅れて、こうなっていると」
〘そうです。また他の魔導書たちの名誉のために言いますが、魔導書としても逃げているつもりは一切ありません。強制的にここへ召喚されるのです。それが、創造神様が創られたルールですので。ですから、彼らは。その……〙
リナが言葉を濁す。
この部屋に集められているのは、創造神様のルールに反した魔導書たち。魔導図書館の疑似人格であるというリアにとっても、扱いに困る存在だと見える。
だけどそれ、俺には関係ない。
「改めて確認だけど、今の俺にはこの魔導書たちを復元する資格とスキルがあるってことで良いんだよね?」
〘はい。必要な資格が【見習い司書】で、必要な司書スキルが【復元】です。傷付いた魔導書の復元作業を進めますか?〙
「うん。やり方を教えて」
〘承知しました。ただし現在のスキルレベルでは、1日に10冊までしか復元できません〙
「えっ。じゅ、10冊だけ?」
こんなにたくさんの魔導書が傷付いているのに!?
〘1日に復元できる数を増やすには、より上位の称号を手に入れて【復元】のレベルを上げるしかありません〙
「そう……。そうなんだ」
はいはい。結局のところ俺は、魔導書の返却を続けるしかないわけね。
良いでしょう。
これまで以上に本気で作業してやる。
俺はこの日から毎日必ず10冊の魔導書を復元してから、【見習い司書】以上の称号を得られる条件を探してひたすら魔導書の返却を進めた。




