4.研究室見学
時間が経つというのは早い物であっという間に9月がやってきた。
そして、このくらいから本格的に研究室選びがはじまる。
決められた期間があるのだけれど、その中であれば比較的自由らしい研究室見学。その時期がやってきた。見るのは見てみたいと考える人たちは全部に行くし、狙いを定めている人は1,2カ所。事前に顔を売っている人はそもそも行かない。
とかいろんな人が居る。
仲がいい人たちはあの時の話通りに新村研への見学にいくらしい。僕は部活を理由に別日に一人で行くことにした。
「まあ、森田研に行きたい人はあの中に居なさそうだし」
と足をすすめていくと、森田研究室の場所にやってきた。
「・・・ほんとにここであってるか?」
研究棟は平屋作りの建物で、まるで車庫とか倉庫みたいな見た目をしているのだけれど、その周辺には学生の自転車、教授の車がとまっている。そんなかんじなのだけれど、森田研の周りだけはそうじゃない。
花壇、そして植木鉢。それもいくつもあるし。何となく興味があって、花壇の中を覗いてみるとそこには花じゃなくてトマトとかが植えられている。名札にそう書かれていた。
「なんで?」
しかも花壇は完全にお手製感満載。ホームセンターで売っているブロックを組み合わせて、その中に園芸用の土を入れた感じの作り。
果たしてここが電気科の研究室であるということはにわかにも信じられないという風体だった。
しばらくそんな雰囲気を眺めていると後ろから声をかけられた。
「おい、真人じゃん。どしたの?」
声をかけてきたのは本藤君。あの仲の良い人たちの1人でもある。彼は少しだけちがっていたのだけれど。
話を聞くと「俺は一応きになるところは見てみる」とのことで、自分が気になる研究室を見て回っているらしい。
「真人も森田研見るのか?」
「うん、そうしようかなと」
「それじゃあ一緒に見よう」
と研究室のドアノブに手を掛けた時、中から声が聞こえて来た。
「やっちゃん!ジュース買うなら俺の分も!」
「はいはい、なに?いつもの水でいい?」
「ジュースって言ってるでしょうが」
するとドアが開く。そこに現れたのは体の大きな人。森田研究室の作業着を着ていて、足元は便所サンダル。そして口元には火のついていない煙草を咥えていた。
「おん?・・・そうか、見学か!」
そう言うとその人は僕と本藤君の肩を掴むと一言「ジュース。それから見学しようよ」
というと僕らの返事を待たないうちに自販機のとこへ連れていかれる。
適当にお気に入りのジュースを買うと少し森田研の人と話をすることに。自販機の近くは喫煙所になっていて、ようやく煙草に火が付いた。
話をすると「やっちゃん」と呼ばれていた人は矢代さんというらしい。学部生ではなく院生とのことだった。
で、本藤君が研究室のことを聞こうとしたのだけれど
「まあまあ、とりあえず中に入りなよ」
と言われてそのまま付いて行くことに。
入り口は玄関的な場所になっていて、そこから真っ直ぐに長い廊下が繋がっている。そしてその廊下からそれぞれの部屋のドアに繋がっているらしい。
「ここ、とりあえず入って」
入り口を入って2枚目のドアを開けると研究室の中が出迎えてくれる。・・・のだけれど、なんか僕がイメージしていた研究室とはかなり違う景色が見えた。
まず、なんか物が多い。のと思った以上に机が多い。所属している人のモノなのだろうか?
すると何人かの学部生、つまり4年生が出てきてくれて挨拶をしてくれた。それで、さっそく何の実験をしているのかの説明をしてくれる。
森田研究室は電気科。そして電気という分野には色んなモノが存在するのだけれど、研究している内容は電動機についてだった。
いくつかの実験班と呼ばれるものが存在し、それは大抵の場合2人1組。内容によっては1人という場合もあるらしい。ここらへんはどの研究室でも同じ感じとのこと。
森田研の場合、実験班は全部で8つ。そのうち7つが2人1組で1つが1人で行っているらしい。
そして院生の人数は修士が現在6名、博士が3名所属していて、また今年には3名、修士に上がるとのことだった。
大体の場合、大学4年生になれば卒業になり、その先の進路は就職。
でも、大学院に進学という選択をとることもできる。
進学した人は「院生」と呼ばれ、簡単にいうと研究室に所属しながら、更に実験をしたり、研究論文を書いたりする場所。そして更に大学院には「修士・博士」と呼ばれる過程がある。
修士は大学院に2年。博士は更に3年。つまり、大学院まで行って、博士課程を終わらせるということは大学に9年間在籍することになる。
僕には到底実感のない、そんな時間のように感じた。
というよりも、この矢代さんの話を聞くと、どうやら森田研は院生の人数がかなり多い方らしい。
「大変な研究室・・・じゃないのか?」
普遍的に考えれば大変なら「森田研で大学院に行かない」というのが当たり前というかなんというか。別に大学院に進む=同じ研究室で研究を続けなければいけない。ということでもない。
いうなれば森田研で学部を卒業したのち、新村研の院生として進学なんていうこともできるだろうし。
「でもなんでなんだろう、聞いてた話とちがうのかな」
気が付くと僕ら以外にも何人か見学の人たちが来ていて、実験の事とか、研究室での生活の事を聞いていた。
でも何となく話をきいていると、就職先は良いのか、研究室はいそがしくないのか、バイトと両立できるのか。だった。
まあ確かに重要な部分ではある。卒業する為に約1年間は所属し、通うことになるのだから。
本藤君も似たようなことを矢代さんに聞いていた。それを僕も何となくきいていたのだけれど、ふいに質問が僕にとんできた。
「なにか、キミは聞きたいことない?」
「えっと・・・」
こういうとき、何か違う質問をしなければいけないという、なんといか自分の中での答えみたいなものがあって。というか同じことを聞いたとしてもあんまり面白くないだろうというのが僕の考えで。
「楽しいですか?森田研」
という明らかになんか見当違いの質問をしてみた。
「楽しい・・・んじゃない?こうやって人はいるから」
まあ確かに。楽しくなかったらいない・・・そうか?卒業の為にいるんじゃないの?
そんなこんなで見学が終わった。
新村研を見に行っていた三浦君たちも同じタイミングで終わったらしく、何人か集まって食堂にむかうと、それぞれどうするか情報交換みたいなのが始まった。・・・僕は森田研しかみていないのだけれど。
でも、話を聞く限り、どこの研究室も似たようなことをやっているらしい。そりゃそうだ、同じ大学、同じ学科。内容はそれぞれにあるにしても、やることはかわらないだろう。
でも、僕の中で気が付いたこといくつかある。
それが、研究室に所属している人たちの中に居た人たち。見たことが有る人が多かったこと。
体育会、文化会などに所属している人。近所のお店でバイトをしている人、とか。そういう人たちが入っていた。
ということはそこまで「自分の時間を取られることは無い」のではないか?ということ。それと、研究内容。それは自分が興味のある内容だった。
確かに聞く限りの範囲で言えば「新村研」がいいだろう。先輩もいるし、口利きしてくれるし。
でもなんだろう、言葉にできないのだけれど、やっぱり森田研に行くという選択をとってみてもいいんじゃないか。と思ってきたわけで。
多分、このままの感じで行くと、仲の良い人たちで固まっていく新村研での4年生の生活。がまっている。
でも、それは果たして自分で決めた。ということなのだろうか。
大学に行くという選択。それを僕は自分で決めると自分自身で選んだ。
であるなら、選ぶ先は決まっているだろう。
僕は研究室希望を書く紙を取り出すと、必要な事を書き込み、そしてそのまま提出した。




