16.気質と手元に
「これを気質でまとめて」
「これをですか?」
森田塾で渡されたのは絵本。凄く有名なお話のもの。中身を少し見ると、僕も知っている物語がそこには描かれていた。
「でも、キチンと読んだことはないな」
椅子に座って本を読むことにした。童話というか絵本はなんかふわっと知っているけど、事の結末までは知らないってことがある。
「なるほどね、こういうお話なんだ」
とりあえず気質のことが書かれている本を見ながらまとめることにした。・・・のだけれども
「さっぱりわからないんですけど?」
本ってそもそもまとまってるもんじゃないのかと思ってて、それを「気質」でまとめて。って言うのが良く分からない。が、よくわからないなりにやらないと前に進まない。
人は4つ気質をもっていて、簡単に言えばその人のメインの性質、資質、性格の要素みたいなのもの。その気質はその日とかやることとかによって、強く出たりする。だから気質は固定されることなく、常に動き、常に変わり続けるものである。
「ってこは本を読めば何となくわかるんだけど」
僕は今考えている。考えている僕の気質とか、考えがうまくまとまらない時の気質とか。そういうのはわかる。
「じゃあそれを書こう」
まとめてイガさんに見せる。
「やりなおし」
また戻る。
このやり取り、つごう半年くらい続いているきがしているのだけれど、それもまたどうなんだ?とも思うわけで。
「そろそろ何とかしないといけないんだけど・・・」
結局、イガさんに作っては見せるというのを数日やり続けることに。
実験の報告資料と同時並行して作ることにもなったし、部活が終わって、皆がご飯にいく時も、自分は研究室に1人でいて、パソコンと本を見ながらにらめっこしていた。
するとある人物が現れる。戸崎さんだった。
「まっちゃん、出来た?イガさんのやつ」
「途中までなら」
僕は出来たものを印刷すると戸崎さんに渡す。
「こっちでゆっくり見ようよ」
といって、僕と戸崎さんは中部屋で紙を持って話すことに。
印刷した僕の資料をじっと見つめ、それから僕に向ってこういった。
「イガさんがまっちゃんにやり直させる理由は簡単だよ」
「そうですか?」
「うん。だってこれ、まっちゃんの言葉がどこにも入ってないから」
「僕の言葉?」
「そうそう」
戸崎さんが言うには、書いてあることは別に完全に的外れなことはない。というかむしろキチンとしているのだけれど、キチンとしすぎている。と言っていた。
「ちゃんとやった方がいいんじゃないですか?」
「そりゃあね。他の研究室ならこれで合格。そのまま卒業だよ。だけど、ここは森田研なんだ。これじゃあ卒業は出来ても、卒業は出来ないよ」
「なんですかそれは」
僕は改めて資料を見た。確かに良くは書けていると思う。けれど、どこか何か確かに。なんか本からそのまま引っ張ってきているっていうか、これだからこうなる。みたいな書き方ではある。
「これなら、別に今の自分の気質を表現して。でいいじゃん?どうして絵本を渡したかってことよ」
「絵本・・・」
絵本ってことは当然、物語である。で、物語ということは・・・なんだ、その、場面が存在する。主人公がこういう行動をした、とか。相手がこういうことを言ったとか・・・。
と、ここまで考えてくるとあることを思いついた。
「・・・これ、じゃあシーン別に登場人物の気質を書いてみればいいんですかね?」
「まっちゃんがそう思うならそれをやってみればいいんじゃない?」
僕はそう考えて、今度は絵本を物語として流れを表すことにした。こう、次へ次へ見たな。主人公がおかれた境遇、思っているであろうことを気質に合わせていくと。
「・・・気質のマッピングみたいなのが出来た」
これをイガさんに見せてみればいいのかな。
イガさんにいつものように渡すと、いつもとはちがってキチンと読んでくれ、そして私の元にやってきて一言
「おせーよ、やっとだよ!」
とややテンション高めに僕の頭にイガチョップを何回もくらわすことに。
「遅いっていうのは・・・どういうことです?」
「ここまでくるのにだよ!」
と言われた。
そうかと言えば僕の資料を見て「ここはこうじゃないか?」とか急に言ってくる。けど、僕が作ったものにそういうことをいってくるのは初めてだった。
「で、どうして気質でまとめたかわかる?」
「気質が大事ってことですか?」
「そういうことじゃねーよ」
またイガチョップが飛んでくることになった。
イガさんが「おせーよ」と言ったのには理由がある。もうカレンダーは9月の後半になっていて、そろそろ3年生が研究室見学が始まるという時期。その時期まで11期生は誰一人として「院生、イガさん、森田先生」と会話をすることすらできなかった。
言葉はわかる。何をしたらいいかもわかる。実験も進んでいる。けれど、その背景にある何かに手を掛けるというところまで到達出来ていなかった。
ここでようやく初めて、手が届く。
向こうが手を差し伸べることは無いけれど、こちらから伸ばした手に気が付かないわけではない。決して迎えに行くことのないその感覚。辿り着くということ。それが僕の中で確かにやってきた気がした。




