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15.イガと会話

 時間を待っているとイガさんがやってきた。いつものように院生と話をした後、中部屋に座って、何か雑誌みたいなものを読み始める。


「あの・・・イガさんはどうして森田研に入ったんですか?」


 考え抜いた質問がこれだった。もっと他に聞くことあるんじゃないのか。と自分でも思ったのだけれど、これが今の自分が出せる聞けることだったわけで。


 どうせ答えてはくれないかもという気持ちもあったのだけれど、いままでの聞き方とは違う。「教えてください」とか「どこがダメなんですか」ではなく、イガさんの事を聞いてるんだ。


 すると意外にも答えてくれた。


「単位が足りないと思ってたんだけど、取れちゃったから仕方なく2年生やってた」


「そうなんですか?」


「うん」


 イガさんは森田研1期生ということはつまり、森田研が出来上がるのにかかわった人でもある。森田先生とイガさんとの出会いはその「仕方なくやってた2年生のとき」の出来事らしい。


「森田先生がさ、教室に来た時、まず、ネクタイしていないのよ。それで両手に紙袋いっぱいに資料持っててさ、それで黒板に板書するとき、後ろ向くでしょ?その時にシャツがでてたんだよ」


「シャツてワイシャツの?」


「そうそう。それで〝あ、このひとしかいない〟って思って付いて行った」


「付いて行った?」


「そう。先生の部屋とかわかんないじゃん?だからそこを知りたくて」


 付いて行くというのは、つまり後を付けたということ。それで先生のいる部屋を突き止めて、入っていったらしい。


「その時に・・・なんだったかな、勉強ついていけません。だからこのままだと卒業できませんっていったんだよ」


「そしたら〝成績じゃないからね〟って言われた」


「この人しかないって思ったんだよ」


 それで入ったらしい。


「先生が研究室を持つ場所。まあ、ここだけどここも掃除も何もされてない状態だったからさ、2年生の時からゆっくりと1人で掃除から初めてさ」


「そうなんですか?」


「そうそう。実験器具とかはわかんないから触らないようにして・・・ゴミとかそういうのを片付けてた」


 その間にもイガさんは先生の部屋を訪れては2人で夜遅くまで会話をしていたらしい。社会人とはどいうものか、技術者とはどういうそんざいなのか、それと、森田先生が大学をここにした理由とか。そういうのを聞いたらしい。


「凄い話し合った。特に森田研をどういう形にするかを」


 そういう話をしていると、気になったのか隣の部屋にいた早坂君もやってきて、中部屋にある椅子に座った。


 イガさんが4年生になると研究室は動き出す。そして卒研をまとめて、卒業。就職することになったらしい。


 イガさんは就職して1年。するとあることが分かったらしい。

 それが「先生が伝えたかったこと」そしてそれを形にするために森田塾を作った。

 とのことだったのだけれど、当初はこういう形ではなく、もっと「ありふれた感じ」研究室のOBを呼んできて、ディスカッションをするみたいなことをやっていたらしい。


 そこら辺の事はなんか確かに環境論文の年表に書いてあった。ここまでは話を聞くだけ。みたいな。


「なんか、こうじゃないなって思ってた」


「それでどうしたんです?」


 なんとイガさんは会社を辞めて、縁があってしったことになる「シュタイナー教育」への理解を深めに行ったらしい。


 それで、農。野菜を育てるというのも必要だと考え、先生に提案・相談したのちに、院生にまず「野菜をやっていこう」としたらしい。


「なんなんですか?先生の伝えたかったことっていうのは」


 するとイガさんは立ち上がるとこういった。


「研究室の中部屋でお菓子を食べるってことだよ」


 いつも院生。矢代さんとか戸崎さんがお菓子がしまってある引き出しを開けると持ってきて食べ始めた。


「はあ」


 僕はそう返事をしたのだけれど、特にわかったこともない。でまた課題を出されてまとめて出す。そうすれば「そうじゃねぇよ」と返される事は続いていく。


 そりゃそうだ。話を聞いたからと言って何か自分でかえるわけでもなく、ただやっているだけなのだから当たり前のことで。


 それから話し合いを重ね、青葉祭での出し物が決まって準備が始まる。やることは正直そこまで大それたものではない。結果的につつがなく、何事もないまま終了した。


 それから大学は長期休みに入ることになる。この時期は最後の部活の試合とか、僕自身がそっちに向っていたこともあって研究室に行く回数も少し減ることに。


 気が付くと秋がすぐそこまで来ている時期になっていた。


 そんなある日、課題をやっていると伊佐木君が煙草を吸うために通り道にやってきた。


「・・・まっちゃんは院生行かないの?」


「いかないねぇ・・・。その予定はないかな」


 現時点で僕の同期は3名、院に進学することにしているらしい。そもそも院を視野に入れて大学を選んだという人もいるみたいだし。


 まあ、森田研だし院生にのこるっていう選択をする人が居るのは今の院生を見てればわかるけど、僕たちの代は少しそれまでとは違っていた。


 それは森田先生が再来年、退官予定だということ。


 これは僕が森田研に入って少しして教えて貰ったことでもある。先生は今年入ってくる12期生と共に大学を卒業することになる。ということは今、僕らが院生になったとしても森田研所属は1年間。その後は他の研究室に移動になる。


「・・・森田先生に教えて貰えなくなるけどいいの?」


 僕はそう伊佐木君に聞いた。


「1年はね。それは仕方ないよ」


「そうか」


「ってことは、イガさんはどうするのかね」


「いや、イガさんはもう来年には千葉に行くらしいよ」


「あーなんかそんなこと言ってたな」

 11期生という僕らが居る森田研はある意味そういうことが起きる節目みたいなものだったらしい。森田塾は12期もやるのだろうか?どうなのだろう。


 別にこれをやらなくてもいいじゃないか、とも思う。別に卒業には関係ないのだから。


 と僕はそう思っていた。

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