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12.論文と卒業式

 研究室で過ごすことが多くなってきて、4年生が何をしているのかというのも見れるくらいにはなって来たとき。研究室の中にはプリンターが有る。それも一般家庭用のではなく、それなりにいい感じの大きさのやつ。


 それが昼夜を問わず動き続け、さらにその印刷物をまとめて本にする作業をしている4年生が何人かいた。


「・・・それなんですか?卒業論文?」


 製本まで自分たちでするのか。と思っていたのだけれど、そうではなかったらしい。けど、卒業論文ではないとのこと。でも、論文だよ。と教えてくれた。


 環境論文と書かれた表紙。中身は10期生が書いたモノらしい。


「まっちゃんたちもいずれ書くことになるから」


 小山さんが僕にそう言った。


書くの?なにを?内容の気になった僕は一冊受け取ると中を開いた。すると、何となくわかるような、わからないような。書いてあることはわかる。けれど、わからない。という気持ちになるそんな論文。


 書いてあるのはシュタイナー教育のさわりのこととか、キックオフ合宿のこと、それと感謝祭とか会計報告とかそんなことだった。


「森田塾のまとめたのがこの論文ってことですか?」


「まあ・・・それでも間違いじゃないけどね」


「そうですか」


 僕は小山さんに論文を渡すと自分の机に戻ることにした。別に興味がないとかそういう話ではなく、ただ単にわからないのであんまり思ったことを言わない方がいいだろうという僕の感覚がそこにあった。

 でも、いずれにしてもあれをこの時期には作るということは知った。ただそれだけなのだけれど。と、目を部屋の本棚に向けると、そこには各期がやった「環境論文」がそれぞれ置かれていることに気が付く。


「8.9・・それぞれ作ってるんだ。こういうの」


 でも別に中身をみるわけでもなく、ただそこにあるということだけを確認するだけ。特に何も思わなかった。


 OB会当日になった。森田研を卒業し、それぞれの期の人たちがやってきた。最大で10年くらいの先輩がいるわけで、そうなると完全に学生と社会人みたいな構図になる。企画のビンゴゲームもつつがなく進行し、終了。矢代さんの言う通り、ある程度ネタみたいなのを仕込んだのも良かったし、空気を読んで先生に商品を渡すこともできた。


「とりあえず、ひと段落?」


 と思っていたのだけれど、次の日には味噌作りが行われる。そのOB会がおわったあと、新4年生は中部屋に集まって、明日からのスケジュールと作り方を早坂君が発表しているのを聞くことに。


「・・・大豆と樽はかってきてあるから、それで。で、最初に大豆を洗って・・・」


 スケジュールを見ると僕はどうやら洗うのをやるらしい。


「それで、作った味噌なんだけど、文化祭で売ることになる」


 と早坂君が言う。森田塾でかかる費用は大学側が出しているわけでも、イガさんでも、院生、OBでもない。こうやって自分たちで稼いでいるらしい。現に僕らが塾で使っているスケッチブックやクレヨンなどはそこから出ているとのことだった。


 次の日の朝、研究室に行くと早坂君と院生、それと同期の何人かが大豆を運んでいる。結構な量の味噌を作るらしく、大豆もかなり量が多かった。


「凄い量じゃない?」


 僕がそう早坂君に僕はそう聞く。

「うん・・・でも毎年この量を作ってるんだって。文化祭で売ったりするから」


「まあ、それもそうなのか」


 ホースを持ってきて樽の中に入れて大豆を洗うことに。この時間、特に何もしゃべることなく、早坂君と僕は淡々と洗い続けた。


 それを次の工程の為にやってきた同期。伊佐木君と中村君に渡す。あとは同じようにリレー方式で次々と渡していき、僕が部活から帰ってくる頃には樽に入れられて、保管場所に置かれている味噌が出来ていた。


「よし、これでいいね」


 と早坂君は少し安心した表所をしていた。多分、初めてやることだったから緊張していたのもあるのかもしれないし、上手く行かないかもしれないと思っていたのかも。


 OB会、味噌作りが終わると、もう卒研発表会になる。


 大学に在籍している4年生。その全員が行うわけで、この時期になるとスーツを着た学生がちらほら学内に居る。きっと練習をしているのだろう。森田研もその練習がはじまり、いつの間にか本番に。


 僕ら同期含めて全員出席。そして4年生の卒研発表を聞くことに。


 発表は10分くらいで、その後に他の教授からの質疑応答がある。ここで答えられるかどうかというのが実は実験をきちんと理解してやってきているか。というのが単位の判定に関わってくるとのこと。


「・・・この質疑で単位認められないってことあるんですか?」


 僕は気になって隣に座っていた矢代さんに聞いてみた。


「うん。ありえるよ。基本的に大学の研究って前の代のを引き継ぐから、中身理解して無くてもただやればいいだけってのもあるし。論文も同じ。だから、質問が来る」


「なるほど、そうなんですね」

「別に引継いでやるのどうのこうのじゃなくて、やっている本人がそれを理解しているかどうかだから」


 こうして卒研発表が終わった。


 発表がおわると4年生は卒業式の日まで特に何もなくなる。それで就職する人たちが殆どで、地方から来ている人なんかはアパートを引き払って、それで式だけ実家から来るなんて言う人もいる。


 のだけれど、森田研の場合はそうではなかったらしい。


「環境論文を最後の卒業として、森田先生に渡す」というのが研究室の卒業式。とのことだった。


 だけど、その論文は完成していないらしく、卒研発表後も連日のように4年生はずっと研究室に通い続けている。


「これ、来年もやるの?」


 4年生がご飯に行ったあと、残された早坂君と僕は部屋で少し話をした。


「そうなんじゃない?」


「大変そうじゃない?」


「うん・・・」


 というか何をしているのかというのが全く見えてこないから大変そうに見える。ともいえるし、なんでこんなことをするのか。というのも分からなかったのだけれど。


 それはそれとして、森田先生、4年生、新4年生が出席する最後の宴会みたいなものが開かれた。


 近所のお店。そこの一角の広間を貸し切って毎年行われてる森田研の・・・なんて言うの?卒業宴会?みたいなもの。


 そこで小山さんにあることを言われた。


「まっちゃん、企画よろしくね」


 とだけ言われたので僕は「わかりました」と返事をした。


 そうしてその後に研究室に全員で帰ると、新4年生から記念品を渡し、写真撮影をして、森田研の卒業式は終了した。

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