第七十二話 第十五章「父を探して」其の十一
泰雅はとうとうひとりになった。
彼は自分がいつの間にか元の年齢相応な姿に戻っているのに気が付いた。
宗次が龍鳥とともに飛び去ってからのようだった。
泰雅は元に戻った自分の姿に戸惑いつつも蒼馬の倒れているところへ駆け寄った。
「蒼馬さん!鈴之緒蒼馬さん!」
泰雅はぼろ布をまとって倒れている男、つまり蒼馬に呼びかけた。
蒼馬の意識は完全には失われていなかった。
朦朧としていた、といったところであろうか。
「うん、ああ…水が欲しい」
蒼馬は呻いて返した。
「ちょっと待ってください!」
泰雅はすぐに応じた。自分の都合とはいえ、彼を待たせてしまった引け目もあった。
すぐ近くに小屋があった。本当に蒼馬の目と鼻の先だった。
たぶん蒼馬さんは自ら小屋に入ろうとして、その直前で力尽きてしまったに違いない、と泰雅は見当をつけた。
小屋は打ち捨てられていた。
霧の民が使っていたものに違いなかった。
なんらかの事情でここを捨てていったのだろう。
ともかく、泰雅は蒼馬を担ぐようにして小屋の中に入れた。
小屋の中には3分の1ほどを占めるひとり用のベッドがあった、
上の布団はうまい具合に除けられている。
泰雅はそこに蒼馬を置いた。
どさっという感じで置いてからすぐに後悔する。
もっと丁寧にやれば良かったのに、と思う。
だが蒼馬は気が付いていないようだった。
彼は意識を戻すと寝床の上で言った。
「ここには昔、ヨルンバと呼ばれる老婆がひとりで住んでいた。彼女には世話になったものだ。何年も前にここにあった集落の人々がみんなどこかに行って集落もなくなってしまったんだが、ヨルンバさんも一緒にどこかへ行ってしまった。ところで君は誰だ?」
泰雅は反射的に胸を張った。
「わたしの名前は堅柳泰賀,堅柳宗次の一人息子です。すぐに水と食糧を持ってきます」
泰雅は小屋の外へ飛び出ると馬に向かった。鞍に付いてある水と食糧を入れる小袋から水筒と簡単な塩にぎりを取り出し、すぐに蒼馬のところへ持って行った。




