第七十話 第十五章「父を探して」其の九
「ほら、噂をすれば、だ」
宗司は顎をしゃくった。
蒼馬がそこに倒れていた。
「彼は練安人民共和国を打倒したのだ」
宗司は説明した。
「しかし彼は民間人相手に無駄な血を流したことで深く傷ついていた。そしてわたしはそんな傷ついた彼を見逃がさず干渉した。」
「わたしの知ったところでは、そこで彼はひとり戦線を離脱し、わたしを分離しようとこの霧の領域へ赴いたことになっている。結局その企てはうまくいってわたしはこうなっているわけだが」
泰雅は父に返した。
「彼は北方王国連合では行方不明ということになっています。いま彼の娘の鈴之緒琴音様が同じ霧の領域へ入って彼を探索しているところです」
「そうか。では彼の意識を戻させて彼女に開け渡せば良いのだな」
宗司は頷いた。
「悪いがあとは頼んだ、おわらせるもの、我が息子、泰雅よ。わたしにはもうお迎えが来たようだ」
大きな羽音がした。泰雅が見ると眼前に巨大な龍鳥が降りて来ていた。
龍鳥は宗次に片手を伸ばした。
「龍鳥が呼んでいる。わたしは行かなくてはいかない」
宗司は言った。
「霧の領域で草原蒼馬が倒れてしまい、分離が起こってわたしが独立した人間になってすぐのときも龍鳥は来てくれて、なにが起こっているのか説明してくれた」
泰雅は鞍の後ろが騒がしいのに気が付いた。
龍三丸であった。
壺のなかで立ち上がり、やたらと動き回って頭と目は龍鳥を向いている。
龍鳥にもう一度その鉤爪のついた固い指で優しく撫ぜて欲しいと思っているようだった。
龍鳥も同じ思いらしく、龍三丸に片手を伸ばし、微笑んでいるようにも見える。
「そういえばわたしに龍鳥のはなしをわかりやすく説明してくれた狒狒がいたな。狒狒はどこにいった?」
「ここだ!狒狒とは失礼な!」
声が霧の向こうから大きく響いた。
「猿田彦さま!」
泰雅は叫んだ。
「いかにも。わたしが猿田彦だ。断じて狒狒ではない」
霧の向こうから猿田彦が現れた。
やはり猿の姿をしており、宗次が狒狒と呼んだのも無理は無いと思われた。
「汝にはよく会うな。ところで向こうに倒れている男の話だが、」
猿田彦は泰雅に言った。
「彼の名は草原蒼馬、おまえの父の仇だ」
「もう違います!」
泰雅は横の宗次を見つめながら叫んだ。
「そうか」
猿田彦は泰雅の言葉を冷静に受け止めた。
「彼、つまり草原蒼馬なのだが、ろくに飲み食いしていないようなのだ、どうやらそれが原因で倒れてしまったらしい」
「おまえに頼みがある」
宗次はまだ子供なままの泰雅に言った。
「草原蒼馬を介抱して欲しいのだ。おまえ、水と食糧を持っているな?」
「はい」
泰雅は返事をした。




