第六十九話 第十五章「父を探して」其の八
泰雅はすこしはなれて宗次の背中についていった。
「このように霧のたちこめる河原であった」
宗司は言った。
「龍鳥がおまえを“おわらせるもの”にすると定めたのは。わたしはとくに抗議しなかったものだ。そしておまえは大きくなった。もしかしたらわたしがいま草原蒼馬から分離して在存できているのもおまえが来たからかもしれないな」
「それほどの者じゃありません」
泰雅は子供の、声変わりする前の声で言った。
「それよりも父上にお願いしたいことがあります」
泰雅は意を決して口を開いた。
「父上は鈴之緒…当時は草原蒼馬に決闘を挑んで倒されながらも“憑依の蛇眼”で草原蒼馬に憑りついたときいております」
「そんな伝わり方をしておるのか」
宗次は少し口をとがらせ、言った。
「だがそれは本当だ。わたしは草原蒼馬という常人に勝負を挑んで逆に彼の“蛇眼破り”に会い、倒された。だが彼は最後に隙を見せ、わたしは彼に“憑依の蛇眼”をかけた」
「そして現在に至るのですね」
泰雅は訊いた。
宗次は答えた。
「ああ。そして現在に至り、おまえは赤ん坊から言葉を自由にしゃべる若者になった」
「…ありがとうございます」
堅柳宗次独特の言い回しにどう返したらいいかわからず、泰雅は返事をした。
泰雅には何となく佐之雄勘治の苦労がわかった。
堅柳宗次は続けた。
「ひとつ気が付いたことがある。草原蒼馬は実に善良な人物だ。愚直と言えるほどにな。わたしを倒せたのもその愚直さに秘密があるのかもしれん」
「わたしがしたい話はそこなのです」
泰雅は言った。
「草原蒼馬は父上に憑りつかれて大変に苦しんでいます。父上にはどうか草原蒼馬に憑りつくのを止めて欲しいのです。なにより父上にふさわしくありません」
「その通りだな」
蒼馬と分離したままの宗司は幼児のままの泰雅の少し前を歩きながらあっさり認めた。
「正直言ってわたしも少々疲れた。草原蒼馬への復讐は一旦終わることとなるがおまえはそれで良いのか、泰雅よ?」
宗次は泰雅の方を向いて訊いて来た。
泰雅は答えた。
「はい、父上。彼は苦しんで来ました。おそらくいまも…父上は長い間彼に憑りついて来ました。わたしは彼だけでなく、父上を解放したいのです」
「そうか。ではそうすることとしようか」
宗司はあっさり言い切った。そして泰雅に言った。
「それにしても泰雅、おまえはやさしいな」
宗次は子供の泰雅の頭を撫ぜた。
「これも“おわらせるもの”の特質のひとつか…」
「そんなことないです」
泰雅ははにかんだ。




