第六十八話 第十五章「父を探して」其の七
河原の岩の上の男が振り返った。
堅柳泰賀の父親、堅柳宗次だった。
「父上!」
泰雅は幼児の姿となっていた。
声もまた幼児の声になっていた。
「父上!父上!」
泰雅は幼児の声で叫び続け、父に駆け寄った。
堅柳宗次は立ち上がった。
無精髭で、無表情であった。
大人の腰までしかない背の泰雅は、
「父上!」
と叫びながら堅柳宗次のもとに飛び込んだ。
宗司は両手で受けとめ、泰雅を抱き締めた。
「変な感覚なんだ」
宗司は言った。
「わたしはずっと草原蒼馬のなかにいた。彼に倒され,最期の一瞬に“憑依の蛇眼”をかけたのだ。だがここでは人格ひとつにひとつの身体が与えられるようだ。わたしはここにいる」
宗司は続けた。
「泰雅よ、おまえのこともそうだ。おまえの名前を考えたのはわたしだが、赤ん坊より大きなおまえを見るのは叶わなかった。ずっと家を離れていたからな。それが子供のおまえを見た途端、ああ泰雅だ、とわかるのだからな」
「父上!」
子供の泰雅はまだ泣いていた。
「僕もあなたの背中をみてすぐにわかりました。父上だと。父上!みんなが父上のことを悪く言うんです。北方の王国に負けたと言って…本来反論すべき母上まで、母上まで…」
泰雅は宗次の腕の中で泣きじゃくった。
宗司は言った。
「わかっている、泰雅よ。もうそれ以上言う必要はない」
泰雅はなにか言いながら相変わらず泣きじゃくっていた。
宗司はそんな泰雅をなだめるように泰雅の背中をぽんぽんと自分の手の平で軽く叩きながら言った。
「泰雅よ、すこし近くを一緒に歩かないか?川縁は霧がたちこめているが」
「構いません!」
泰雅は勢い良く返事をした。
どこであろうが、父である宗次と一緒にいられるのが嬉しかった。
「では河原を歩こう」
宗司は言ってゆっくりと歩き出した。




