第六十七話 第十五章「父を探して」其の六
泰雅は振り返った。
龍三丸はまだ珍しく壺の中で活発に跳ね回っていた。
「さあ、行こう」
泰雅は言った。
「もう行かなくちゃ」
そして泰雅は濃くなった霧のなか、馬を再度歩かせ始めた。
やがて川と、その前にある茂みが現れた。
川面から霧が煙のように立ち上っていた。
泰雅は強く父の堅柳宗次の存在を感じ、馬を止めた。
すぐ近くの木立ちで馬を降り、後ろの木箱を鞍から解く。
木箱には革紐がついていて、担げるようになっている。
泰雅はそうした。
なかにいるはずの龍三丸は、すでにいつものようにおとなしくなって木箱のなかにある壺の底で息を潜めるようにしている。
泰雅は木箱を担いだ。
「父上に会いに行こう」
泰雅は木箱を担ぎながら中にいるはずの龍三丸に話しかけた。
木箱を担ぎ、水が木箱からこぼれないことを確認すると泰雅は自分の足で歩き出した。
霧のなかで粗い石の上を歩いていると、泰雅はあることに気が付いた。
自分が段々と幼子へと変わっていくのだった。
泰雅は担いだ木箱が相対的に徐々に重く大きく、服装は小さくなる自分に合わせて徐々に変わっていくのを感じた。
泰雅はそれでも前へ歩き続けた。
やがて川面が見えるところまで出た。
泰雅は龍三丸が活発なことに気が付いた。
いまはすっかり大きく、重たくなった木箱を改めて抱き締めた。
龍三丸はオオサンショウウオを思わせる頭を振って泰雅の注意を河へ向けようとしていた。
「川へ行きたいのかい?」
泰雅は幼子の声で思ったことをきいた。
水、あらたな水を欲しているのか。
泰雅はそう思ったのだった、
だが違うようだった。
龍三丸は河に近付くと興奮したように動き回った。
ある地点を見て首を伸ばして口を開き、動き回って泰雅の注意をそこに引こうとしている。
泰雅はそこを見た。
河原に大きな岩がいくつかある。
そのひとつに座り、こちらに着物の背中を見せているひとりの男がいる。
父の背中であった。
「父上!」
泰雅は叫んだ。




