第六十六話 第十五章「父を探して」其の五
(「して、今回は何の用だ?」
猿田彦が尋ねると、泰雅は
「今回は鈴之緒琴音さまとともに父上の鈴之緒蒼馬さまを捜しに来たのです」
と答えた。そして
「我が父上の魂が彼に憑りついて苦しめている、とききました。それを止めさせたくて」
と控えめに付け加えた。
猿田彦はそれには構わない風に泰雅に話した。
「ここからそう遠くない場所に、ひとりの男が歩き回っている」
猿田彦は言った。
「ぼろを被った男だ。たぶん彼が鈴之緒蒼馬だ。龍鳥さまは彼が求めているものを知っている」
「なんですか?」
「心の平和だ。だれも彼の心のすき間にささやいたりしない状態だ」
泰雅は思わずうつむいた。
「龍鳥さまは彼を助けたいと思っている。もしおまえが同じ気持ちなら結構なことだ。龍鳥さまが彼のそばまで行きたいと仰るので私も向かっているところだ」
猿田彦は言った。
「彼…鈴之緒蒼馬はどこにいるのです?」
泰雅は尋ねた。
猿田彦はただ手を上げ、霧の向こうを指差しながら、
「詳しくはわたしも知らん。ただ向こうの方角に彼がいるのを感じる。だから私は行くだけだ、龍鳥さまとともに」
そう言って、
「もし汝が鈴之緒蒼馬に会いたいと欲するなら、しばしの間自分で捜さないと駄目であろう。それでも良いか?」
と訊いてきた。
泰雅は、
「そのようですね。仕方ないです」
と答えた。
猿田彦は、
「汝が倒れでもしない限り、すぐに会えるだろう。それまで無事でいられよ。後ろで動いている、かわいいミズトカゲもな」
龍三丸が壺のなかで跳ねた。
龍鳥と戯れた記憶がまだ新しく、また龍鳥と遊べると思っているらしかった。
「龍鳥さまはずいぶんと汝のことを気に入って可愛がっておられたようだからな。おそらくその運び手以上に」
「そうですね…」
泰雅は認めざるを得なかった。
「ではこのあたりで。わたしは先を急いでいるからな。と思えばもう龍鳥さまが来た」
それはいつものように、霧の向こうの巨大な影と、甲高い鳴き声だった。
龍三丸が滅多に無く嬉しそうな鳴き声を上げ、壺の中で嬉しそうに跳ねまわった。
龍鳥は霧の向こうで羽ばたく巨大な影に過ぎなかったが、泰雅と龍三丸の声に気付いたのか、一周だけぐるりと回った。
そしてまた向こうに飛んで行った。
泰雅は視線を上から横に戻した。
猿田彦はもう去ってしまっていた。




