第67話 届かない刃
空が裂ける。黄金の門が世界を覆う。
天そのものが開いたかのようだった。人類軍、魔王軍、誰も動けない。神威。圧倒的な存在感。
そして、門の奥から声が響く。
《キング保有者を確認》
《最終処分を開始》
「毎回毎回……しつこいんだよ」悠はため息をついた。
かつてなら恐怖した。逃げた、死んだ、転生した。しかし、今は違う。魔王。神へ届く力を持つ存在。
「来いよ」悠は空へ向かって手を伸ばした。
その瞬間、黄金の槍が降り注ぐ。数万、数十万。空を埋め尽くす神の武器、世界そのものを消し飛ばせるほどの光。
しかし、悠は動かなかった。右手を振る。それだけだった。
空間が歪む。次の瞬間、神の槍が消えた。いや、消えたのではない。遥か彼方へ吹き飛ばされた。
人類軍が絶句する。魔族も言葉を失う。
《……》
初めて、神が沈黙した。
「届くだろ?今の俺なら」悠は笑い、神へ向かって拳を振り上げる。
轟音。空そのものが揺れ、黄金の門に巨大な亀裂が走った。神への反撃。それは初めての出来事だった。
しかし、その時、勇者が剣を抜いた。聖剣。白銀の光が戦場を照らす。勇者は苦しそうな顔をしていた。
「お願いです。戦うのをやめてください」
「無理だ」悠は笑う。神が許さない、キングが許さない。何より、ここで終わらせなければならない。
勇者は唇を噛み、聖剣を構えた。戦場が静まる。
悠も剣を出す。魔王の剣。しかし、動けなかった。
目の前にいるのは勇者だ。なのに悠の目には別の姿が見えていた。沼で出会った少女、吸血鬼の時代に笑い合った聖女。
リシェル。何度転生しても、忘れられなかった人。
(……駄目だな)
勇者が迫る。聖剣が振り下ろされる。悠は避けるだけで、反撃しない。できない。
「どうして戦わないんですか!?」勇者も気付いていた。
「できるわけないだろ。お前に」悠は苦笑した。
勇者の瞳が揺れる。理由は分からない。なのに胸が締め付けられ、涙が出そうになる。
その時、神の声が響いた。
《勇者》
《討伐を継続》
黄金の光が勇者を包む。神の加護。聖剣がさらに輝き、勇者は苦しそうに顔を歪めた。まるで誰かに操られているようだった。
悠の表情が消える。今までの優しい笑顔ではない。魔王の顔、怒りだった。
「……そういうことか」
神は勇者を利用している。悠を倒すための駒として。
その瞬間、悠の魔力が爆発した。世界が震え、人類軍が吹き飛び、魔王軍が膝をつき、空が割れる。
悠は勇者ではなく天を見上げた。そして神へ向かって言った。
「俺はいい。何度でも殺せ。何度でも転生する」
一拍。
「だが……」魔王の瞳が燃える。「そいつを利用するな」
怒りの魔力が天へ向かって放たれた。
神と魔王。ついに本当の戦いが始まろうとしていた。




