第66話 最後の戦い
夜。魔王城の最上階。悠は一人で夜空を見上げていた。
(たぶん……これが最後だ)
根拠はない。しかし、分かる。長い転生人生で培われた直感だった。
スライム王、鯉王、カニ王、蝶王、ワイルドボア、熊、狼、リザードマン、スケルトン、オーク、コボルト、ホブゴブリン、オーガ、蟾蜍、サソリ、吸血鬼、蜘蛛、そして、魔王。
数え切れない死、数え切れない王座、数え切れない別れ。その全てが終わりへ向かっている気がした。
「勇者に会うか」悠は静かに立ち上がった。
翌日。最前線、広大な平原。人類軍と魔王軍が睨み合う戦場の中央へ、悠は一人で歩き出した。
「魔王様!?」
「お一人で!?」
魔王軍がざわめく。しかし悠は止まらない。人類軍も騒然となった。
そして、軍勢の前から一人の少女が歩み出た。
勇者。白銀の髪、澄んだ瞳、聖剣。その姿を見た瞬間、悠の足が止まった。心臓が跳ねる。
(……あ)
見間違えるはずがなかった。顔は違う、年齢も違う、立場も違う。しかし瞳だけは同じだった。沼のほとりで笑った少女、月夜の城で微笑んだ聖女。
リシェル。
悠は呆然と立ち尽くした。
勇者もまた、魔王を見た瞬間に息を呑む。知らない、会ったこともない。それなのに涙が出そうになった。
「……あなた」勇者の声が震える。「どこかで……」言葉が続かない。
「そうか」悠は苦笑した。「やっぱりお前だったか」
「え?」勇者は首を傾げる。
悠は空を見上げた。何度も会った、何度も別れた。王になって、死んで、転生して、その度にどこかで会っていた。偶然なのか、運命なのか。もうどうでもよかった。
ただ一つだけ分かった。最後に会いたかった相手が、目の前にいる。
「なあ」悠は静かに笑った。「俺たち、どこかで会った気がしないか?」
勇者の瞳から涙がこぼれた。「……分からない。でも」胸を押さえる。「会いたかった気がします」
風が吹く。戦場が静まった。魔王軍も、人類軍も、誰一人として動けない。まるで世界そのものが、二人の再会を見守っているようだった。
その時、空が震えた。
ゴゴゴゴゴゴゴ……
悠は顔を上げ、笑った。「やっぱり来るよな」
空が裂けていた。巨大な黄金の門、神の門、世界を見下ろす光。何度も見てきた光景。しかし、今回は違う。悠は魔王、神に届く力を持つ王。そして目の前には、何度
転生しても出会い続けた少女。
最後の戦いが始まろうとしていた。




