第63話 蜘蛛王、最後の巣
地下第四層。
巨大な洞窟が崩れ落ちる。岩が砕け、天井が裂ける。その向こうから現れたのは竜だった。
巨大。ただその一言だった。
黒い鱗、金色の瞳、岩を砕く顎。洞窟の通路を埋め尽くすほどの巨体。
《地下竜王》
(いやいやいや。デカすぎるだろ)悠は思わず顔を引きつらせた。
咆哮。洞窟全体が揺れる。子蜘蛛たちが怯えて鳴いた。
その声を聞いた瞬間、悠の表情が変わった。
(ああ……守らなきゃならないのか)
かつては面倒だった。数万匹の子蜘蛛。頭によじ登るし、勝手に寝るし、うるさいし。しかし、いつの間にか、守るべき存在になっていた。
(将軍!)蜘蛛将軍たちが振り返る。(卵と子供を連れて逃げろ!)
蜘蛛将軍たちは驚いた。王が残る、自分たちを逃がす。ありえない命令だった。
(行け!!)悠が怒鳴った。
その瞬間、蜘蛛たちが動いた。大量の糸、大量の卵、大量の子蜘蛛。王国の未来が地下深くへ運ばれていく。
そして、その前に立つのは一匹。蜘蛛王。
(さて。王様の仕事だな)
地下竜王が突進した。轟音、岩盤が吹き飛ぶ。悠は糸を放つ。何百、何千、何万。鋼鉄より硬い王の糸。しかし竜の爪がそれを引き裂いた。
バキィッ!!
(うおっ!?)
一撃。それだけで脚が二本吹き飛ぶ。圧倒的だった。スライム王、鯉王、カニ王、オーク王、吸血鬼王。歴代のどれよりも強い。地下竜王は本物の怪物だった。
それでも悠は立つ。子蜘蛛たちが逃げる時間を稼ぐ。ただそれだけのために。
何度も立ち上がる。脚が折れる、外殻が砕ける、血が流れる。それでも立つ。
(……逃げろ)
遠くで子蜘蛛たちが鳴いた。その声を聞いて、悠は笑った。
(よし)
十分だ。王国は残る。
次の瞬間、地下竜王のブレスが放たれた。白い光、世界を焼き尽くす閃光。悠の視界が真っ白になる。
(また負けたな)
不思議と悔しくなかった。守れたから。それだけで良かった。
光が全てを飲み込む。
《アラクネキング死亡》
《キング起動》
《転生開始》
闇。そして玉座。
巨大な黒曜石の玉座、赤い絨毯、黄金の柱、巨大な城。目の前には数千の魔族が跪いている。
《転生完了》
《種族:魔王》
悠はゆっくりと立ち上がった。角がある、魔力がある、翼がある。そして王ではなく、世界そのものが恐れる存在。魔王だった。
玉座の間に歓声が響く。
「魔王様!!」
「魔王様の復活だ!!」
「人類を滅ぼせ!!」
「世界を征服せよ!!」
悠は沈黙した。そして深くため息をつく。
「……嫌な予感しかしねぇ」
こうして数え切れない転生を経て、悠はついに魔王になった。




