第62話 蜘蛛王、育児に敗北する
地下王国。
そこに戦争の気配はなかった。あるのは卵。卵。卵。卵。卵。見渡す限り卵だった。
悠は卵の山の前で固まっていた。(……多くないか?)
数千どころではない。数万。いや、もっといる。洞窟全体が卵で埋まっていた。
蜘蛛将軍たちは誇らしげだった。まるで
「王よ!未来です!」とでも言いたげな雰囲気である。
(未来ってレベルじゃねぇよ……)
その時だった。
ピシッ。
小さな音が響く。一つの卵にヒビが入った。「あ」
ピシピシピシッ。
連鎖するようにヒビが広がる。嫌な予感がした。ものすごく嫌な予感だった。
そして、パキン。
卵が割れた。中から小さな蜘蛛が出てくる。手のひらサイズ、黒い身体、つぶらな赤い目。
子蜘蛛は悠を見た。じーっ。
さらに周囲の卵も割れ始める。
パキパキパキパキッ!!
無数の子蜘蛛が誕生した。そして全員、悠を見る。
じーーーーーーっ。
(……なんだ?)
次の瞬間。
「うおおおおおお!?」
大量の子蜘蛛が悠に向かって突撃した。
足、背中、頭、肩。全身によじ登ってくる。
《蜘蛛王認識》
《親認定》
(誰が親だ!!)
悠は必死に振り払う。しかし無理だった。子蜘蛛Aが脚によじ登り、子蜘蛛Bが頭に乗り、子蜘蛛Cが顔に張り付き、子蜘蛛Dが腹の上で寝る。
(重い重い重い!!)
蜘蛛将軍たちは満足そうだった。王が愛されている、素晴らしい。そんな顔である。
(お前ら助けろ!!)
助けない。むしろ増える。次々に卵が割れ、子蜘蛛が増殖していく。
(増えるなああああ!!)
数時間後。悠は完全に埋まっていた。蜘蛛山。その中心にいるのは蜘蛛王だ。
(……俺は何をしているんだ)
かつて勇者と戦い、神と戦い、国を築き、王になった。しかし今、子蜘蛛のベッドになっていた。
(人生って分からねぇな……)
その時、洞窟の奥から警報音のような振動が響く。
ドゴォォォォン!!
地面が揺れる。蜘蛛将軍たちの顔色が変わった。
《緊急事態》
《地下第四層崩壊》
(今度は何だよ)
洞窟の奥から巨大な咆哮が響き渡る。
グオオオオオオオオオ!!
蜘蛛たちが震える。悠も理解した。
(……でかい)
そして、《キング》が告げる。
《警告》
《竜族接近》
《地下竜確認》
(子育て期間、一日で終わったんだが?)悠は頭を抱えた。
こうして蜘蛛王国最大の危機が始まった。
しかし、その時、悠の頭の上では子蜘蛛たちが気持ち良さそうに眠っていた。
「せめて降りろ!!」
地下世界に悠の叫びが響いた。




