第50話 崩れる王国
「……王、北部鉱山の鎮圧軍が戻りません!」
報告に駆け込んできた兵の声が、王の間に響く。
悠は沈黙のまま玉座に座っていた。その瞳には、かつての炎はなく、疲れと、諦めが滲んでいた。
(またか。富を得れば、誰かが必ず奪おうとする)
館の外では、群衆の怒号。
「飢えている!」
「王は贅沢をしている!」
かつての忠誠は、今や呪詛に変わっていた。
夜。王の晩餐。いつも通りの食卓。焼いた肉、濃い酒、そして豪華な皿。だが今日は香りが違った。
(……妙に甘い)
悠は肉を口に入れ、違和感に気づく。舌の奥に残る鉄の味。その瞬間、喉が焼けるように熱くなった。
「……っ、毒……か」
立ち上がろうとするも、体は痙攣し、金の杯が床に転がる。
「王よ、あなたは……もう“古い”」
薄暗い柱の影から現れたのはエレミアだった。
いつの間にか、彼女は新たな“評議会”の中心にいた。
「貴方の理想は尊い。けれど、それを守るために血を流す時代は、もう終わりです」
「……裏切ったな……」
「いいえ。進化したのです。私たちが“文明”を手に入れた証ですよ」
悠の手から剣が滑り落ち、床に転がった音が広間に響く。
数日後。
石造りの処刑場。雨の中、王は磔台に縛り付けられていた。
民衆の目は冷たく、その前に立つのはかつての部下たちだった。
「王ヨ、罪ハ重イ。富ヲ独占シ、国ヲ腐ラセタ」
(……俺が、か)
悠は静かに笑った。
「そうか……結局、そうなるんだな」
彼の目には、もう恐怖も抵抗もなかった。
《キング》の光が微かに揺らぎ、
“王”の資格が奪われていく。
「……処刑、開始」
刃が振り下ろされる。赤い血が雨に溶け、ゆっくりと地へ流れていった。
そして、次の瞬間。
冷たい風。木々のざわめき。土の匂い。
(……生きてる?)
悠は目を開いた。視界に広がるのは、切り立った岩山と、群れで木の実を奪い合う―“山猿”たち。
その中央で、群れが跪く。
《転生完了:種族・マウンテンエイプ》
《称号:猿王》
「……山猿の王か。あぁ……もう笑うしかねぇな」
悠は額を掻き、木の上から空を見上げた。
(けど、せめて今度は……誰も殺さずにすむ王でありたい)
だが、その背後では別の群れの雄猿たちが牙を剥いていた。
“力こそすべて”の野生。新たな王の地位を巡る闘争が、始まろうとしていた。




