第49話 富と腐敗
交易の成功から半年。
オーガの村は、もはや“村”とは呼べなかった。
岩壁の間に木造の家が並び、煙突からは白い煙が立ち上る。
金属の鎧を纏った兵士、香料を売る女、
夜には酒場の灯りが揺れた。
その中心に、“王の館”。
悠はそこから街を見下ろしていた。
(……変わったな)
かつての獣の群れは、言葉を学び、秩序を作り、いまや金を数えるようになった。
だが……。
「王ヨ、報告ガアリマス」
副官バルドが現れる。
顔は険しい。
「北ノ鉱山、労働者ガ反乱ヲ起コシタ。食糧配分ヲ求メテ」
悠は眉をひそめた。
「配分? 何か不正があったのか」
バルドは少し躊躇してから言った。
「……“富ヲ持ツ者”が現レタ。取引デ儲ケ、奴隷ヲ雇イ、酒ト肉デ日々ヲ過ゴス者達ガ」
悠は立ち上がった。
館の壁には、金の装飾が煌めいている。
それを見つめながら、彼は胸の奥で冷たい痛みを覚えた。
(俺は……また繰り返しているのか)
夜。
王の広間に、交易商人エレミアが姿を見せた。
以前よりも上等な衣を纏い、香水の匂いを漂わせていた。
「王よ、反乱は小さなものです。いずれ鎮圧されましょう。問題は“力の管理”です。
富があればこそ、秩序もまた買える」
悠は静かに問い返す。
「……お前たちは、いつも“秩序”を金で買うのか?」
「ええ。人間社会とはそういうものです。
欲望を否定せず、利用する。それが文明という名の檻です」
(檻、か……)
悠は玉座に座り直し、群れの中で権力を握り始めたオーガ商人たちの名を次々と口に出した。
「……その者たちを集めろ。“王の会議”を開く」
エレミアが笑みを深める。
「ほう、“議会制”ですか。面白い。人間のように……なるおつもりで?」
悠は目を閉じた。
「俺は、いつだって人間の業の延長線にいる。逃げられないんだよ」
夜明け前。
街の外れで、貧しいオーガたちが噂した。
「王は変わっちまった」
「金の匂いがする」
「昔の王じゃねぇ」
その声を聞きながら、悠は崖上に立っていた。
東の空に朝日が昇る。
(……まただ。富を持てば腐る。権力を持てば争う。スキル《キング》は、きっと“試練”なんだ)
彼の拳が震えた。
(いまこそ全てを奪う側の王になってやる)
太陽が昇り、オーガの街が金色に染まる。
それは繁栄の光であり、同時に崩壊の兆しでもあった。




