第47話 鉄と畑を知るオーガ
山を吹き抜ける風は冷たく、血と灰の匂いがまだ残っていた。
だが、その中でオーガたちは動いていた。鉄を運び、岩を砕き、木を組み上げる。戦の咆哮が消え、代わりに、槌と火の音が響くようになった。
悠は岩上の玉座。いや、ただの大きな石に腰をかけ、下を見下ろしていた。
「……やっぱり、力だけじゃ長くは続かねぇ」
副官のオーガ、バルドが首を傾げる。
「王ヨ、戦ナラ我ラ、無敵。何ヲ恐レル?」
悠は指を鳴らした。焚き火の炎が少し強く揺れる。
「戦って、奪って、食って。それを続けたら、どうなる?」
「……食ウモノ、尽キル?」
「そうだ」
悠は立ち上がる。山の斜面には、狩り尽くされた森。倒された獣の骨。そして、焼け野原のような平地が広がっていた。
「だから、作るんだ。“奪わずに生きる方法”を」
バルドが怪訝な顔をする。
「作ル? 何ヲ?」
悠は笑った。
「食いもんだ。畑をな」
数日後。
オーガたちは初めて“畑”というものを見た。地面を耕すという行為が理解できず、
最初は木を殴り、岩を砕こうとした。
悠はため息をつきながら、見本を見せる。
「違う。こうやって土を掘るんだ。“地面の中に命を埋める”んだよ」
「地面……生キル?」
「生きる。食える。戦わずにな」
オーガたちは信じられないといった顔で見ていたが数カ月後。芽が出た瞬間、その場の全員が腰を抜かした。
「王ヨ!! 草ガ……生エタ!!」
「コレ、食エル?」
「食えるようにするんだ。それが“育てる”ってことだ」
悠は笑った。
(力の王、ね。でも、本当の力ってのはこういうもんだろ)
さらに悠は、捕まえて捕虜にしたドワーフの冒険者を呼び寄せ、鉄の道具を作らせた。
鍬、斧、槌。
オーガたちはそれらを“武器”ではなく“道具”として使うことを覚えた。
《スキル《キング》:文明権限・開発段階上昇》
《新文明:鉄農時代 開始》
《称号獲得:創造の王》
「よし……これで、“獣の国”は卒業だな」
だが、その夜。焚き火の向こうで、一体のオーガが低く呟いた。
「王ガ……弱クナッタ」
その言葉に、周囲の空気がわずかに凍る。
悠はまだ知らなかった。“力を捨てた王”は、“恐れられぬ王”でもあるということを。




