第44話 討伐軍、迫る
「……王。南の森で、人間どもが陣を張りました」
報告を受けた悠は、鍛冶炉の赤光に照らされたまま、静かに顔を上げた。
(早かったな。やっぱり嗅ぎつけたか)
彼の周囲では、鉄を打つ音が止まらない。ホブゴブリンたちが新たな武具を鍛え、ドワーフたちは黙々と設計図を描いていた。
「数は?」
「およそ千。騎士、弓兵、魔導師……それに、“勇者”の名を持つ者が一人」
悠の眉がぴくりと動いた。
(勇者か。……また、あいつらの“都合のいい正義”か)
森の外、人間たちは神殿の旗を掲げていた。その中央に立つ若き将、レオン。金髪の青年で、聖騎士団の筆頭にして“勇者”の称号を持つ男だった。
「情報通りだ。森の奥に“魔族の都市”が築かれた。鉄を扱い、兵を鍛える……人間への脅威だ。」
後ろの神官が頷く。
「神の名の下に、浄化を。」
「ああ、焼き尽くす。」
レオンの青い瞳には、燃えるような光、いや、狂気が宿っていた。
その夜。悠は城壁の上で、遠くに灯る人間の焚き火を見つめていた。
「王よ、どうされます?」
副官のホブゴブリンが問う。
「戦うしかない。けど、勝つ必要はない」
「……?」
悠は口の端を上げる。
「逃げる時間を稼ぐだけだ。それで十分。
“王の命”が続く限り、またどこかで国を興せる」
副官は黙って頷いた。
その背後で、鉄鎧を纏ったホブゴブリンたちが整列する。彼らの手には、もう粗末な武器ではなく、ドワーフの技が息づいた剣と槍があった。
森がざわめき、風が鳴る。
そして、人間たちの聖火が森を焼き始めた。矢のように飛ぶ炎。光の雨が、夜空を紅く染めた。
「来たな……」
悠は剣を抜いた。その刃が、炎の中で鈍く光る。
(また“処刑”の時間か)
《スキル《キング》発動条件:敵対勢力の指揮者認定》
《称号:防衛の王》
悠の瞳が赤く光った。
「全軍、応戦。燃える森を、俺たちの墓場にするな!!」
轟音と共に、鉄の都〈ゴルグ〉が火に包まれる。だがその炎の中、確かに“王”の威光だけは、燃え尽きることはなかった。




