第43話 鉄の都〈ゴルグ〉
戦の夜が明けた。
灰と血に覆われた鍛冶村の跡地で、悠は立っていた。その手の中には、まだ熱の残る鉄塊がある。
(これが、文明の礎になる)
ホブゴブリンたちは勝利の咆哮を上げ、
捕らえられたドワーフたちは、怯えた目でその光景を見ていた。
「……お前たちに選ばせる」
悠は低く言った。
「俺たちに協力し、生きるか。拒むなら、ここで灰になるか。」
ドワーフの代表。髭の長い鍛冶師が唇を噛んだ。
「……鉄を侮辱する者には手を貸さぬ」
悠は黙っていた。そして、ただ一言。
「では、お前の鉄を受け継ぐ者を選ぶ。」
次の瞬間、彼の首が地に落ちた。鉄床に赤が散る。誰も声を上げなかった。
悠は血の滴る槍を下ろし、残る者たちを見渡した。
「次に同じことを言う奴はいるか?」
静寂。
やがて一人の若いドワーフが震える声で答えた。
「……命があれば、鉄は打てます。教えます。何でも。」
悠は頷いた。
「それでいい。」
数週間後。森の奥に煙突が立ち並んでいた。岩と木を組み合わせた要塞のような工房群。赤い溶鉱炉が唸り、槌の音が昼夜を問わず響く。
《新拠点:鉄の都〈ゴルグ〉》
《鍛冶技術 Lv2》
《武具生産開始》
ホブゴブリンたちは粗末な棍棒を捨て、
鋼の剣と槍を手にし、体には鉄板の鎧をまとった。
悠は城のような大岩の上から、その光景を見下ろす。溶岩のように赤い光が地を照らし、群れが変わっていくのを感じた。
(……これが“力”の形。奪った命の上に立つ、王の都だ)
傍らに立つ副官のホブゴブリンが問う。
「王よ、これよりどうされる」
悠はゆっくりと口を開いた。
「鉄を得た。次は火だ。火山の支配権を奪う。」
副官が息をのむ。
「火山の向こうは……ドワーフ王国領ですぞ」
「知ってる」
悠は静かに笑った。
「だが、“鉄の都”が生きるには、炎の心臓が要る。」
風が吹き、灰と火花が舞う。遠くで鍛冶槌の音が響いた。その音は、まるで戦の前触れのようだった。




