第42話 鉄を求めて、血を流す
森の北端。
灰色の山脈が霧に包まれ、その麓には、小さなドワーフの鍛冶村があった。昼夜を問わず、鉄を打ち、火花を散らして生きる者たち。
彼らにとって“鉄”は命そのもの。
その夜、山の下から異様な気配が迫っていた。
「おい……なんだ、あの音は」
「……太鼓?」
ドンドン!!ドンドン!!
森が鳴る。炎が灯る。数百の瞳が赤く光り、大地を踏み鳴らしながら進軍してくる。
「う、うそだろ……魔物の軍勢!?」
《ホブゴブリン軍・進軍開始》
悠は軍の先頭で槍を構えていた。目の前に広がるのは、岩の砦と煙突。その奥で、慌てて武器を構えるドワーフの兵士たち。
(悪いな。お前らの鉄が、俺たちには必要なんだ)
悠は腕を上げた。
「突撃――!!!」
叫びとともに、軍が動いた。夜空を裂く咆哮。矢が飛び、炎の壺が砦の壁を焼く。
ドワーフたちは必死に反撃した。
「奴らを止めろっ!ここは我らの工房だ!」
「くそっ、矢が足りねぇ!」
だが、数が違った。次々と門が破られ、
鉄と血が入り混じる戦場と化す。
「降伏しろ! 抵抗すれば皆殺しだ!」
悠の声に、ドワーフの長が唸った。
「我らは鉄を誇りに生きる種族だ! 誇りを捨てて生きるくらいなら死を選ぶ!」
「……なら、そうしろ」
悠は槍を構えた。次の瞬間、鋭い音とともに、長の胸に槍が突き刺さった。火花のように血が散り、短い悲鳴が響いて、静寂が訪れる。
《敵指導者死亡。戦意喪失確認》
残った者たちは膝をついた。悠は振り返り、軍に命じる。
「全ての鉄を回収しろ。抵抗した者は処理しろ。」
ホブゴブリンたちは無言で従い、鍛冶場から鉄塊や道具を運び出していく。焦げた木の匂い、溶けた金属の光。
その中で悠は一人、血に濡れた槍を見下ろした。
(……これが王の選択か。誰かの命を奪ってでも、群れを生かす)
風が吹き抜け、灰が舞う。夜空に赤い炎が燃え上がる。
《資源獲得:鉄鉱石・武具・鍛冶技術》
《ホブゴブリン軍 装備強化開始》
悠は静かに呟いた。
「これで、俺たちは“森の獣”じゃなくなる。……次は、“帝国”だ。」
炎に照らされたその瞳は、もはや人のものではなかった。




