第39話 最弱の王、反撃
夜の森。
洞窟の入り口を包むように、松明の灯が揺れていた。
「魔物どもを殲滅しろ! この地を清めるのだ!」
聖騎士団十数名。鉄の鎧、聖印の旗、そして浄化の魔法を使う神官たち。ゴブリンたちは怯え、身を寄せ合っていた。だが、ゴルは一歩も引かない。
(勝てる……いや、“勝たなきゃ”終わりだ)
洞窟の奥、仕掛けておいた罠の縄を握る。タイミングを計りながら、人間たちが足を踏み入れた瞬間。
「今だ!!」
引いた。轟音。岩壁が崩れ、炎の矢が反射する。油壺が割れ、聖騎士たちの足元に火が走る。
「なっ、罠だと!? ゴブリンがこんな……!」
パニックに陥る騎士たち。その混乱の中、ゴブリンたちは影のように走り出した。
「ギギャアッ!!!」
「ぐああっ!? 背後か!!」
短剣が閃き、鎧の隙間を突く。石槍が突き刺さり、倒れた敵の武器を奪う。ゴブリンたちは、初めて“狩られる側”から“狩る側”へと変わった。ゴルは隊長の聖騎士に狙いを定める。その男は聖剣を掲げ、炎を振るって突進してきた。
「下等種が、調子に乗るなぁッ!!」
「下等かどうかは……勝ってから言え!」
ゴルは身体を回転させ、鎖を足に絡めて引き倒す。次の瞬間、天井から落下した岩が隊長を押し潰した。
静寂。
燃える松明が落ち、血の匂いだけが漂う。
「……勝った、のか?」
「聖騎士、いない……! 王、勝ッタ!!」
ゴブリンたちは震えながら叫んだ。勝利の実感よりも、恐怖と興奮の入り混じった“叫び”。ゴルは息を切らせながら、倒れた仲間たちを見渡す。半数以上が動かない。それでも。
(生き残った。初めて、“人間に勝った”んだ)
手の中のナイフを見下ろす。鈍く光る刃に、自分の血が滲んでいた。
「……悪くねぇな」
その呟きに、誰かが泣き笑いのような声で応えた。
「王……王、強イ……!」
「違ぇよ。お前らが、強くなったんだ」




