第38話 ゴブリンキング、知恵で這い上がる
暗い洞窟の中。
鼻を突く腐臭と、湿った空気。目を開けると、そこは岩と骨に囲まれた世界だった。
(……また転生、か)
身体は小さく、皮膚は緑。手には錆びた骨のナイフ。周りには、獣臭を放つ小柄な同族のゴブリンたち。
「ギギッ……新入りか?」
「腹、減った……人間、いないか?」
怯えと飢えの混じった目。誰もが自分以外を信用していない。
(……これがゴブリンか。下等生物、ってやつだな)
ルガ。いや今の名は“ゴル”。彼は立ち上がり、岩壁を見上げた。
「おい、上の出口はどこだ?」
返事はない。ただ、遠くの暗闇から、低い唸り声だけが聞こえてくる。
(ふむ……ここ、完全に“負け組の巣”か)
だが次の瞬間。
《スキル《キング》が発動しました》
頭の奥に声が響く。
《種族:ゴブリンにおいて王資格を獲得しました》
洞窟の中、他のゴブリンたちが一斉に振り返った。その瞳に“服従”の色が宿る。
「うおっ……またこれかよ」
ゴルは苦笑しながら、ナイフを掲げた。
「いいか、これから人間を襲うのはやめだ。狩りをしろ。罠を作れ。食料を確保しろ。それができねぇ奴は……置いていく。」
「ギギ……でも、人間、強い……」
「強いなら、頭を使え」
小石を拾い、洞窟の壁に線を描く。地図のようなものを作りながら、どこに出口があり、どこに水があるかを示していく。
「この道を掘り進め。こっちは獣道、夜にしか通るな。敵が来たら音で知らせる罠を仕掛けろ」
数日後。
ゴブリンの巣は静かに変わり始めた。見張りが立ち、罠が張り巡らされ、洞窟の奥には貯蔵庫まで作られた。
「ギギ……食べ物、増えた……!」
「巣、襲われない……!」
群れの表情が変わる。彼らの目には、わずかな“誇り”が宿っていた。
(悪くねぇ。ゴブリンだって、ちゃんと生きられる)
だが、その平穏は長く続かなかった。夜、洞窟の入り口に影が現れる。松明の明かり。鎧の音。
「ここだ、魔物の巣はこの先だ!」
「聖騎士団の討伐隊だ、全員構えろ!」
ゴルは静かに息を吸い込んだ。
(……結局、また人間か。でも今回は逃げねぇ)
彼はナイフを地に突き立て、仲間たちに向けて吠えた。
「俺たちは獣じゃねぇ!群れだ!生きるために戦え!!」




