第36話 コボルト王、群れを束ねる
森の外れ、岩と草に囲まれた谷間。
そこに暮らすのは、飢えと恐怖に怯える小さなコボルトたちだった。体は細く、目は鋭く、牙をむき出しにしながら、それでも彼らは弱者のように群れを縮こまらせていた。
悠。いや、今の名はコボルトキング“ルガ”は、彼らを見下ろして深く息を吐く。
(……これじゃただの野犬だ。けど、俺が王になった以上、変えてやらねぇとな)
骨の槍を手に取り、ルガは吠えた。
「聞け!!これから俺たちは逃げねぇ!!人間にも、オークにも、誰にもな!!」
最初は戸惑い。だが、王の咆哮に呼応するように、群れの中で小さな声が上がった。
「……ルガ、王……?」
「王、強イ……!」
彼は頷いた。
「強くなる。だがそれは、殴り合いじゃねぇ。狩るために動け、守るために考えろ。
それが“群れの強さ”だ!」
《スキル《キング》:支配領域・獣族共鳴》
その瞬間、コボルトたちの瞳が金色に光った。心が繋がり、彼らの恐怖が消えていく。代わりに、確かな“誇り”が生まれた。
数日後。
谷には見違えるほどの変化があった。木の上に巣を作り、石を積み、川に罠を仕掛ける。ルガの指示で、狩猟と警備の隊が分かれ、獣たちは秩序を持って暮らし始めた。
「火を使え。焼けば肉は長持ちする。夜は見張りを立てろ。他の獣人を見つけたら、殺す前に話せ」
その言葉どおり、彼らは変わっていった。狼獣人、狐獣人、熊獣人……少しずつ、他の亜種も彼のもとに集まる。いつしか、谷の中央に巨大な骨の門が建てられた。
その上には、牙を象った紋章。
「獣王ルガ」
そう呼ばれるようになったのは、その日からだ。ルガは焚き火の前に腰を下ろし、
遠くの空に沈む夕日を眺めた。
(……力で支配するんじゃねぇ。生きるために、群れをまとめる。これが本当の“王”なら……悪くねぇ)




