第35話 勇者、王の森を焼く
エルフとの会談の場。
森の奥に立つ大樹の下で、オークとエルフが向かい合っていた。悠は慎重に言葉を選びながら、地図の上に指を滑らせた。
「この川を分け合えば、どっちも生き残れる。争うより、助け合った方が得だろ?」
女族長も静かに頷く。
「……理ではそうだ。だが、感情は簡単ではない」
その時だった。空気が、震えた。
「貴様がオークキングか!」
閃光と共に現れたのは、白銀の鎧をまとった青年。背中に聖紋を刻んだ剣を背負い、神聖な光を放っていた。
「勇者、アレス!」
エルフの兵が膝をつく。悠は眉をしかめた。
(……マジか。勇者とか、聞いてねぇぞ)
アレスは剣を抜くと、悠を指差した。
「穢れた王よ! 貴様の存在は神への冒涜だ!」
「おい、ちょっと待て。今は話を!!」
その言葉より早く、光が走った。聖剣が大地を裂き、オークの兵が吹き飛ぶ。
「くそっ……!」
悠は拳を構える。青い魔力が腕に宿り、地を揺らす。
「全部、壊してどうすんだよ!お前ら、“正義”って言葉、便利だよな!」
激突。光と炎が森を焼く。オークとエルフが混ざり合い、悲鳴と怒号が響いた。
悠は渾身の力で勇者の剣を受け止めた。
骨を砕くような衝撃。だが、勇者は一歩も退かない。
「死ね、魔の王!」
剣が胸を貫いた。悠の身体から光が漏れ、世界が遠のく。
(……また、こうなるのか。王ってのは……ほんと、命が短ぇな)
周囲の喧騒が消え、光が溶けるように闇へと沈む。暗闇の中、音がした。風。草のざわめき。
そして、小さな咆哮。
悠は目を開けた。体が軽い。四つ足。毛並み。爪。
(……今度は……犬?)
《転生完了》
《種族:コボルトキング》
《スキル《キング》発動》
周囲には、小柄な獣人たちがいた。金色の目を光らせ、彼を見上げる。
「……王、アラワレタ」
悠は空を見上げて、小さく笑った。
「また“王”か……もう慣れたよ」
風が吹き、草が揺れる。その先には人間の街。
(さて……今度は、牙で生きるか)




