第34話 オーク王、森の境に立つ
森の奥に築いたオーク王国“グルナ”。
丸太と石の砦、狩猟道、畑。血と汗で作り上げた小さな国は、今や森全域に広がりつつあった。だが、繁栄は長くは続かない。
「王、報告! 北ノ川、エルフ、来ル!」
使者が駆け込む。悠は地図を見ながら眉をひそめた。北の川。それは国を支える水源。
(やっぱり来たか……)
そこは昔から、エルフたちの聖域でもあった。静寂と精霊の森。その川を塞いだのが、オークたちの堰だった。
「“水を返せ”と怒鳴り込んできたわけか」
悠は立ち上がった。
「よし、俺が行く。戦う前に話をしよう」
副官が慌てて止める。
「危険! エルフ、オーク、昔カラ敵!」
「知ってる。でも、今の俺は“王”だ」
川辺。透き通る水。そこに、弓を構えたエルフの戦士たちが並んでいた。中心には銀髪の女族長。冷たい瞳で悠を見据える。
「森を汚すオークの王よ。その水は、我らの命だ。退け」
悠は両手を上げ、武器を持たぬことを示す。
「俺たちも飲まなきゃ死ぬ。でも奪うつもりはねぇ。分け合いたいんだ」
「言葉だけの王が……何を語る」
矢が一本、悠の足元に突き刺さる。オーク兵たちが一斉に構えた。緊張が走る。
(……まずいな。もう一触即発だ)
悠は深呼吸し、ゆっくりと川へ歩み寄った。そして両手で水をすくい、口に含む。
「……この水は、誰のものでもない。森のものだ。俺もお前らも、森に生かされてる。それだけだ」
エルフたちがざわめいた。女族長がわずかに目を細める。風が吹いた。川の上を流れる精霊の光が、ふわりと揺れる。それが、まるで“答え”のようだった。女族長は静かに弓を下ろす。
「……少しだけ、話を聞こう。オークの王よ」
悠はにやりと笑う。
「助かる。まずは……茶でも飲もうか」
その日、森の奥でオークとエルフの“初めての会談”が行われた。争いではなく、言葉で。




