第33話 オーク王、森に国を築く
朝靄の中、悠は高台から遠くを見つめていた。
森の外。広がる平原の向こうには、人間の旗が見える。鋼の鎧、槍の列。その数、おそらく千を超える。
(……やっぱりな。オークがまとまったって噂、もう人間に届いたか)
後ろで副官格のオークが唸る。
「バルグ王、戦ウカ? 我ラ、強イ!」
悠は首を横に振った。
「いや、戦わねぇ。勝っても損しかしねぇ」
オークたちが戸惑うように顔を見合わせる。悠は腕を組み、ゆっくりと語り出した。
「森を出れば、食料は増える。けど、戦争が来る。森の奥に逃げれば、腹は減るが、平和はある。俺たちは、獣じゃない。生き残る方法を“選ぶ”んだ」
静まり返る群れ。やがて一体のオークが胸を叩いた。
「王ノ言葉、我ラ、従ウ!」
それを皮切りに、全てのオークが咆哮した。低く、力強く、森を震わせる声だった。その夜。悠は地図を描いていた。大きな岩を中心に、川沿いに集落を配置し、狩猟路を線でつなぐ。
オークたちは丸太を削り、土を掘り、石を積み上げた。
「ここを城にする。ここに火を絶やさない炉を置け。森の奥でも生きられる“国”を作るんだ」
《スキル《キング》:支配領域・森級拡張》
地面が光り、森の魔力がオークたちに流れ込む。彼らの動きが変わった。ただの野蛮ではない。“組織”として動く群れ。
(……ようやく、“王国”っぽくなってきたな)
遠くでは、人間の軍勢が撤退を始めていた。森の深さに怯え、手を出すのをやめたのだ。悠は焚き火の前で肉を焼きながら、空を見上げた。
「楽して偉くなりたい。昔の俺が聞いたら笑うだろうな」
夜風が木々を揺らす。その音はまるで、森そのものが王に祝福を送っているようだった。
(けどまぁ……悪くねぇ。王様ってのも、やり方次第だ)
オークの王国。それは、血と鉄ではなく“知恵”で築かれた初めての国だった。




