第32話 オーク王、咆哮す
森の奥。
湿った土と獣臭が漂う。焚き火の赤が夜を照らし、オークたちの唸り声がこだまする。巨体のオークたちが肉を焼き、笑い、争っていた。その中心に悠がいた。筋骨隆々の緑の腕。太い牙。
しかし、その目は他のどのオークよりも冷静だった。
(……本能のままに動くだけの連中か。これじゃあ、ただの獣の群れだな)
肉の塊を投げ合うオークたちを見て、悠はため息をついた。だが、次の瞬間、大柄なオークが立ち上がる。
「グルァッ! 新しい“王”だと!? 笑わせるな!」
その声に群れがざわめく。挑戦の眼差し。オークの掟は王を名乗る者は、力で示さねばならない。悠はゆっくり立ち上がり、口の端を上げた。
「……力が見たいなら、見せてやるよ」
地を蹴る。その動きはまるで獣ではなく、人間の戦士のように鋭かった。巨腕を受け流し、逆に顎へ拳を叩き込む。
「グゴォッ!?」
鈍い音とともに、相手の巨体が地面に沈んだ。周囲のオークたちが息を呑む。悠は拳を振って血を払った。
「王ってのはな、殴るだけが仕事じゃねぇ。食料も、水も、敵も全部“考える”んだよ」
沈黙。
やがて、一体のオークが膝をついた。続いて二体、三体……やがて全てのオークが頭を垂れた。
「……オークキング、バルグ(悠)!」
焚き火の火が高く燃え上がる。その光の中、悠は静かに笑った。
(これで、とりあえず“群れ”はまとまったな。……次は、この森を支配してやるか)
《スキル《キング》:支配領域拡張》
風が森を渡る。その瞬間、遠く離れた別のオーク集落でも同じように、膝をつく影が現れた。オークたちが“ひとつの意志”で繋がる。悠の王権が、森全域に広がっていく。
(……ああ、悪くない。これが“支配”ってやつか)
焚き火の中、オークの王が笑った。夜の森に、低い咆哮が響き渡る。




