第16話 王の空を裂く覇の戦い
風が裂けた。
雷鳴のような咆哮が空を震わせ、雲を吹き飛ばす。
「グオオオオオオオオ――ッ!!!」
その声の主は、漆黒の巨影。
無限の空を支配する者。
黒竜。
鱗は鋼のように輝き、その息は炎よりも熱かった。
黄金の翼を広げた鷹王・悠は、対峙するように宙を滑る。
風が弾け、稲妻が尾を引いた。
(……でけぇな、おい)
悠は苦笑し、爪先に風を集中させる。
《対竜戦モード:起動》
《スキル《風爪撃》《疾風加速》発動》
風が爆ぜ、黄金の閃光が走った。
疾風のごとき一撃が竜の頬を掠め、厚い鱗を一枚、削ぎ落とす。
(チッ、硬ぇ……!)
黒竜の瞳が燃えるように赤く光った。
【貴様が“空の王”か。……愚かなる羽虫め】
(誰が羽虫だ、こっちは“風の支配者”だっつの!)
空が唸り、風が弾ける。
王と王が激突する瞬間、雲が裂け、天地を貫くような轟音が響いた。
翼がぶつかり合い、風圧が地上の森を薙ぎ払う。
悠は爪を突き立てながら、冷静に考える。
(あいつは“力”の王……。でも、俺は“風”の王。力じゃ勝てねぇ。けど、速さなら!)
《スキル《疾風環》発動》
悠の身体が光の線となり、風の軌跡を描きながら竜の周囲を旋回した。
速度が視界を歪ませ、竜は追いつけない。
(今だ!)
悠は急降下し、爪を振るう。
閃光の一閃が黒竜の片翼を切り裂いた。
竜が唸り、血のように赤い炎を吐き出す。
だが、次の瞬間。
ドゴォッ!!
巨大な尾が、横薙ぎに悠を叩きつけた。
黄金の翼が砕け、骨が悲鳴を上げる。
悠の身体は雲を突き抜け、風環都市の中央へと墜落した。
【王ッ!!】
ゼルドたちの叫びが、風の中にかき消える。
(……クソ、まだ……終わってねぇ)
悠は折れた翼を引きずりながら立ち上がる。
その目に、天を覆う漆黒の影――竜が見えた。
喉の奥に、光の奔流が集まり始めている。
《ドラゴンブレス:チャージ完了》
悠は薄く笑った。
(あーあ、また負けるのか、俺は)
脳裏に過ぎる。
花を焼かれた蝶。毒に沈んだ蟻。
地を這った蛇。空を掴んだ鷹。
(……でも、誰かが続けるなら、それでいい)
《スキル《王権譲渡》発動》
《所有スキルの一部を次代へ継承》
風が集まり、光が翼へと宿る。
悠は静かに空を見上げた。
(次の王、頼んだぞ……)
その瞬間、竜の口が開き、天を裂く炎が放たれた。
轟音。閃光。
空そのものが焼かれる。
黄金の羽が、燃えながら散っていく。
風環都市を照らすように王の最期を告げながら。
《鷹王、死亡》
《王権データ継承完了》
《再転生条件達成》
暗闇。静寂。
やがて、微かな音が響いた。
ジジ……ジジジ……。
《新転生体:セミ族(蝉王)》
(……え、鳴いてる? これ、俺?)
木の幹に張り付き、太陽を浴びる身体。
周囲から聞こえる、やたらと賑やかな鳴き声。
(マジか……今度はセミの王? 鳴くだけの王様……?)
かつて空を支配した王は、
今、木陰の中で“鳴く者たちの王”として目覚めた。
だが、夏の空は。
まだ、彼を笑ってはいなかった。




