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「可愛いな」
「ありがとうございます。こうして普段と違う恰好をしていると、落ち着かないですね」
私もグラナート様もお出かけをするために、変装をしている。大公夫妻としてお出かけをすると思ったように楽しめないだろうということで、お忍びでお出かけをすることになった。
思えば実家に居た頃、私以外の家族はよくお出かけしていた。私は一人でお出かけなんてしなかった。お忍びでどこかにいくこともなかった。
……私なんかが、外に出ない方がいいって。
そう思われてたのは確かだった。
こうして素敵な旦那様が出来て、愛する気持ちを知って……お出かけをすると考えるとこんなにもワクワクしている。
平民がお出かけをするような動きやすい服装。それに日を遮るために帽子もかぶる。
「はしゃいでいるシアンナが可愛い」
「そうですか? グラナート様ははしゃいでくれませんか? 私はこんなにもあなたと一緒にお出かけ出来るのが嬉しくて仕方がないのに」
私はそう言ってグラナート様を見る。
こういう言い回しをするのは、侍女達から夫婦ならこうして甘えてもいいと言われたから。少しぐらい試すような言い回しをしたとしても問題ないのだって。
全く親しくない相手にこんなことを言ったらどうかと思うけれど、グラナート様は私の夫だもの。
「同じ気持ちに決まっているだろう? こんなに可愛い嫁と出かけられるのだから」
「そう言ってもらえると嬉しいですわ。私、外出にはあまり慣れていないのでエスコートお願いしますね?」
私がそう言ったらグラナート様は頷いてくれた。
それから馬車で大通り付近まで移動した。そこからは歩いての移動だ。自分の足でこうして王都を歩き回るなんて考えたこともなかった。
これまでは王都にやってきても、いつも下を向いてばかりだった。前を向くことも出来ず、自分が此処に居ていいのだろうかとそんな風に落ち着かなかった。王都で暮らす民たちの姿をちゃんと見ることもなかった。
でもグラナート様が隣に居てくれるから、周りを見る余裕が出来た。
なんて素敵なんだろう。
――こうしてお忍びでお出かけするのって、沢山の発見がある。
「グラナート様、人が沢山いますね」
私ははぐれないようにグラナート様に手をひかれている。王都は人が多い。私は王都をこうして歩いたのは初めてだけど、様々な人達が存在している。
伯爵家に居た頃も王都には訪れていたのに、こんな光景を全く目に留めていなかった。それは少しだけもったいなかったかもしれないと思った。
でもそうだ、今までちゃんと見てこなかったからこそ余計に目の前の光景が素敵だなと思えるのだと思うと、悪くないなとは感じた。
「ああ。……危険がないように俺から離れるなよ」
「はい。もちろんです」
お忍びでお出かけしている私達。護衛はついているけれど、グラナート様は私に何かあったら嫌だと思ってくださっているのだと思う。
でもグラナート様の傍に居るのならば、危険なんて何一つない。
私はそう思っているから、グラナート様の傍を離れないようにしようと改めて感じた。
グラナート様と一緒に王都を歩くというだけでもなかなか楽しい。なんだろう、グラナート様が傍に居てくださるだけで、全てが特別なものに感じられる。
これこそが、愛なのだろうな。
愛している人が傍に居ると、こんなにも嬉しくて仕方がないのだ。
グラナート様をじっと見つめる。視線に気づいたらしいグラナート様はこちらを見る。
「どうした?」
優しい声だ。私に対して向けられるこの優しい声も好きだなと思った。
「グラナート様は今日もかっこいいと思いましたの。こうして色んな方々が視界に入ってくるけれども、グラナート様が一番目立ちます。キラキラしているというか……これはその……私が、グラナート様を愛しているからと言えるからだと思います」
愛しているという気持ちを知る前は、私は此処までグラナート様を眩しく思わなかった。もちろん、視線は追っていたけれども……。
だけど、そう、愛を知ったらグラナート様がとても素敵で、輝いているように見えた。
「本当に可愛いな。……外じゃなければ抱きしめるんだが」
「帰ってからの楽しみにしてください。帰宅後は幾らでも、可愛がってくださって構いませんので」
私がそう言って微笑むと、グラナート様の目が細められる。まるで獲物を見つけた獣のよう。こんな視線も、好きだなって思う私は重症かもしれない。
そんな会話を交わしながら、私は楽しく過ごしていたのだけど……。
「なんで、まだ離縁していないのよ」
聞きなれた声が聞こえてきたかと思えば、魔力が背後で集められているのが感じられた。
そしてその場で、炎が上がる。
私は咄嗟で動けなかった。でもグラナート様はすぐに動いた。




