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グラナート様が全て説明をしてくれて、私だけではなく子爵令嬢に対しても気遣いを見せてくれている。グラナート様って、やっぱり優しいな。私が子爵令嬢のことを気に掛けているからというのもあるだろうけれど、こういう優しいところはグラナート様の魅力だ。
子爵令嬢は、グラナート様とどうこうなりたいわけではないと言っていたけれどこんなに素敵なグラナート様だと知らないうちに惹かれてしまったりする人もいるのではないかなってそう思ってしまう。
……そういう相手が現れた時、私はどう対応出来るだろうか。本気でグラナート様を奪おうとする人が居たら、私はみすみす渡すのか? とそんなことを思考してみる。
嫌だなと思ってしまう私は、十分にグラナート様を特別に思ってはいるんだとは思う。愛……これは愛と呼んでいいのかな。愛が何なのかいまいちぴんとこないけれども、それでもこれは愛なのかもしれない。
こんな曖昧な表現でいいんだろうか。……でもグラナート様を誰にも渡したくないっていうのは本当の気持ちだ。
グラナート様とずっと一緒に居たくて、いつかグラナート様との間に子供が出来たら嬉しいとも思う。
そういう特別な感情を抱いている相手は他でもないグラナート様だけだ。他の異性にこんな感情を抱くかどうかと考えてみると、それはあり得ない気がする。
私はつらつらとそんなことを考えてぼーっとしてしまう。
事情聴取を終えて、グラナート様と一緒に馬車に乗っている。
「シアンナ、疲れたか?」
心配そうに顔を覗き込まれる。
私のことを心から心配してくれていて、思いやってくれている。その事実だけで嬉しい。
「少し。でもグラナート様が守ってくださったから、お姉様ともちゃんと話せました。……お姉様と話が通じなかったことだけは、少し悲しいですけれど」
お姉様と分かり合える方がずっと嬉しかった。当たり前の姉妹のように話せたらいいなと思っていた。
でも心のどこかでは、お姉様は私と分かり合ってはくれないのだろうな。話を聞いてくれないだろうとそうは思っていた。
――だってお姉様は最初から、私のことを居ないもののように扱っていたから。
一人の人間として、尊重してくれることなどなかった。まるで置物か何かのように、意思のない人形のように――そう思われていたのかも。
「あの女のことは気にしなくていい。血が繋がっていた家族だろうと、分かり得ないものは分かり合えない。あれは仲良くしようとしても疲れるだけだ。時間が解決をしてくれる可能性はあるかもしれないが……今は駄目だ」
「……そうですね。私もそう思います。お姉様は少なくとも現状、何かに焦っている様子ですから。その焦りの原因を解決するまでは、お姉様は私がグラナート様と仲良くすることを認めなさそうですもの。時間が解決して、お姉様がもう少し落ち着いてくれたらいいなとは思います」
お姉様と仲良くなる道は、諦めてはいる。きっと難しいだろうなって。それでも……お姉様がもう少し私のことを尊重してくれるようになったら、ただの知り合い程度の関係でも築けるのではないかってそうも思う。
私とお姉様は、それでいい。
「シアンナは優しいな。もっと報復をしてもいいのに」
「んー、どうでもよくなったというのが正しいかもしれません。私にとってお姉様は特別で、凄く眩しい存在でした。お姉様の言うことが全てだってそう思い込んでいて、ああなりたいって昔は思ってました。でもなれないって。ただ今は……私はお姉様のようにならなくていいって思えました」
それも全て、グラナート様のおかげなんだよなぁと思う。
グラナート様が、私を肯定してくれた。ありのままの私でいいのだと、そう言ってくれた。
グラナート様が私のことを受け入れてくれて、大切に扱ってくれて、尊重してくれる。だから私はもうお姉様のことをそこまで特別視していなかった。
――お姉様の言うことは、絶対ではないのだとそう知った。
「全部、グラナート様のおかげです。ありがとうございます」
「俺が好きでやっていることだから、お礼は要らない。シアンナが堂々としている様子を見て、かっこいいと思った。惚れ直した」
「……そ、そうなんですね。でもグラナート様の方が、かっこよかったです。凄く素敵で、守ってもらえているんだなと思ってドキドキしました」
私のことを、かっこいいなんて言ってくれるグラナート様。私よりもずっとグラナート様の方がかっこいいのにな。
思い出しただけでも、胸がとくんとくんと脈打っているのが分かる。
「グラナート様、私は……お姉様からこの立場を譲るように言われた時、嫌だと思いました。その……誰もが認めるような素敵な女性相手でも、グラナート様の妻の座をわたしたくないって」
この言葉は、私にとっての紛れもない本心。嫌だと感じてしまった。私は……ずっとグラナート様の傍に居たいのだ。
「私はグラナート様が許してくれる限り、ずっとあなたの傍に居たい。……た、多分、私はグラナート様のことを愛しているんだと思います」
私は自信なさげにそう告げた。




