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残された私たちは、騎士達に事情を聞きたいと連れられた。子爵令嬢は青ざめたままで、「大丈夫?」と声をかけるとこくこくと頷かれる。
私もそこまで背は高くはないけれど、私よりも小柄だ。庇護欲をそそるような、雰囲気で可愛らしいのはそう。……お姉様は彼女をどうやらグラナート様の奥さんにしたかったみたい。
私は可愛い少女だなと思って、その後、はっとする。
グラナート様は私を可愛いなんて言ってくれているけれど、この子爵令嬢の方が可愛いもの。そちらの方が可愛いって思うんじゃないか、お姉様の言うようにそちらの方がいいって言われたら……と考えると、少しだけモヤモヤした気持ちになった。
彼女がお姉様に無理やり連れてこられて、大変な目にあっていた女の子にこんな感情を抱くなんてすべきじゃないのに……。
感じてしまった感情に、何とも言えない気持ちになった。
それにしても、騎士達って少し威圧感がある。彼等も仕事だから、きちんと情報を聞こうとしているのだろうとは分かる。
流石に騎士達の中にはお姉様の息がかかった人たちは居ないみたい。そのことにはほっとした。
私にとって世界というのは、お姉様を通じて広がっていたのだなと改めて実感する。グラナート様の妻になって、そうじゃない世界を知った。
それでも騎士達も、お姉様の知り合いである気がしてならなかった。なんだかんだ私は、お姉様は自分とは関係ないって思いながらもまだまだ根本的にはお姉様のことを気にしてしまっているのだと気づく。
「おい、俺の妻を萎縮させるな」
「も、申し訳ございません!!」
グラナート様の冷たい声に騎士達が一斉に謝る。こんなにガタイが良くて、私よりもずっと強そうな人がこうして謝るんだと驚いた。こうしてじっと見つめてみると、この方達はお姉様の影響を受けていないんだなとほっとした。
それからグラナート様が主導で、騎士達に全て説明してくれた。私を守ろうと一生懸命な様子に、胸が温かくなる。
グラナート様は、素敵な男性だ。私のことを、愛してくれているからこそこうして私のために行動を起こしてくれている。そのことがとても嬉しい。
それにしてもグラナート様って、誰かに物事を説明するのも得意なんだな。そういう一面を知ることが出来るだけで心が穏やかになる。不安も何もかもが吹き飛んでいく。
「あ、あの大公夫人様。この度はご迷惑をかけてしまって申し訳ありません」
「謝罪は必要ないわ。こちらこそ、私のお姉様がごめんなさい。まさかこんなことを起こすなんて思ってもいなかったの」
私がもう少し幼いころから……お姉様と向き合っていたらまた別だったのかな。お姉様が自分の行動を全て正しいものだとそう判断したのって、誰もお姉様の行動を咎めなかったからというのもあると思う。
これまでの出来事で何らかの挫折でもしていればきっと別で。なのに、お姉様はこれまでの人生全てがおそらく上手く出来てしまった。それに自分の思う通りにするために、強硬手段はやってそう。
私に対しても「~であるべき」って言っていたから、おそらく他の人にだってそう。
……私は家族なのに、お姉様とずっと向き合ってこなかったんだなって。そのことを少しだけ悔やんでしまう。
私の言葉は両親やお姉様、お兄様には伝わらない可能性の方が高い。私の言葉なんて、聞く価値がないと思ってるかも。それでも伝えようとするのと、最初からあきらめるのとではまた違うだろう。
……そもそもの話、私はグラナート様に出会うまで自分の家が変だなとか、私が蔑ろにされているとか、そのことに気づくことは出来なかった。
だから結局たらればの話だ。でもそうだな、お姉様にはちゃんと向き合ってくれるような人が居なかったんだな。
本当にお姉様のことを考える人が居れば、お姉様のことを注意したりする人がいたはずなんだ。だから、なんというか、お姉様のことを眩しい存在だと思っていたけれど、可哀想な人だったのかもしれない。
……お姉様は私から憐れまれることを嫌がるだろうが。
「大公夫人様のせいではりません……! な、なんでか分からないのですが、あの方に私は目をつけられてしまって……。大公様とどうこうなりたいとか、私は思っていませんのでご安心ください!! 大公夫人様と大公様はとてもお似合いだと思います」
慌てた様子で声をあげられる。その様子を見て、私は思わずくすりっと笑った。
もしかしたらグラナート様がこの子を好きになるかもしれない、なんてそんなことは思わなくもない。それでも悪意がない事も分かる。それに蔑ろにしようという意思も見られない。
下位貴族の令嬢であるのならば、大公家に対して何かしようとしているわけではないのだ。それにお姉様の言うことを聞こうとしているわけでもない。
――彼女は明確に、巻き込まれただけだった。




