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お姉様を久しぶりに見た。
黄金に輝くキラキラとした髪は相変わらず美しい。橙色の瞳はまっすぐに、射抜くように私を見ている。
――私はずっと、お姉様がまぶしすぎて、その目をまっすぐに見つめることも躊躇していた。
でも今は、お姉様の視線にまっすぐに見返すことが出来る。
そしてそんなお姉様は、一人の令嬢を連れていた。……顔色が悪い。子爵令嬢にまとわりついていると、グラナート様が言っていたけれど……彼女だろうか。
自分よりも位の高い令嬢からこんな扱いをされているのならば大変だろう。あれだけ青ざめるのも仕方がない話だと思った。
「お姉様、ごきげんよう。そちらの方の顔色が悪いので、お放しになったら?」
私はにっこりと微笑んでそう言った。
お姉様に対してこんなことを言う自分に対して不思議な気持ちになった。私がお姉様に反論する未来なんて想像していなかった。
こんな私が存在していたのかと、不思議な気持ちになっている。
お姉様も、私にこんな風に言われることはないと思っていたのか、驚いた顔をして次の瞬間にはその目が細められる。まるで睨みつけるように、こちらを見ている。
「シアンナ、口答えはよしなさい」
それは決定事項だとでもいうような言葉だった。私が反論するのを驚愕し、だけれどもそんなことはあり得ないとでもいうようなそんな態度。
これで私が黙り込むと思っているんだろう。そうじゃないとありえないって。
……お姉様って、私が思っているよりもずっと横暴な人だったんだな。それに誰よりも私のことを蔑ろにしている人なんだ。
「これは口答えではありません。お姉様、このような場で無理に人を連れまわしてはいけません。それは社交界経験の少ない私でもわかりますわ」
お姉様って、どうして周りを今は見れてないんだろうか。私が嫁ぐ前、もっとお姉様は冷静だったように見える。
これまでお姉様が言ったことが外れたことはなかった。それが少しずつ外れているのに焦っているのか? それともちょっとした想定外ぐらいは受け入れられたけれども、受け入れられないぐらいの大きなずれが生じた?
でもなんだろう、お姉様が私を睨みつけていても……口を閉じようとは全く思わない。前なら何も言えなかった。
以前の私だったら、グラナート様が途中で口出ししただろうな。でも今の私はお姉様の目をまっすぐに見て、言葉を告げられる。
「私のやることにあなたが口出しをする筋合いはないわ。この子のことは放っておきなさい。それより……どうしてそもそもあなたが此処にいるの?」
私に対してお姉様はそう口にする。その堂々たる様子が凄いなと思った。だってこんなにも自身の言葉を信じている。
ただの伯爵令嬢でしかないお姉様と、大公夫人となった私。
その立場を考えると、私にこうして意見を口にするだけでも周りから見たら信じられないことではある。
実際にこちらを注目している者達の数も多い。
こんな風にお話をするのならば、もっと人気のない場所でした方がいい気がするのだけど。
「どうしてって、私は大公夫人でグラナート様の妻ですから。夫婦で王都の社交界に参加するのは当たり前のことでしょう。それにお姉様は放っておきなさいというけれど、こんなにも顔色が悪いのを放っておけません」
お姉様が慌てれば慌てるほど、余計に私自身は冷静になれる。だって、こんなお姉様相手に感情的になって言葉を伝える必要はない。
お姉様は私の言葉が気に食わないみたいだった。綺麗な顔が、嫌そうにゆがんでいる。お姉様は笑っている方がいいのになと思ったりする。
ただし私がこうして反論をしている限り、お姉様は冷静になったり、微笑んだりしない気がした。
「王都の社交界にあなたがいることがおかしいの。そもそもどうして、あなたが生きているの?」
お姉様は凄いことを人前で聞いていることを自覚していないのだろうか。
私しか目に入っていない?
お姉様から離れられない令嬢が、その言葉を聞いて青ざめている。信じられないものを見るようにお姉様を見ている。それも当然のことだ。
だってこんな場所で、妹の死を願っているような発言をするなんて正気じゃないから。
嫁ぐ前の私は、死ぬ運命と言われても構わないと思っていた。その状況がおかしかったんだ。
そのことにより一層、今のお姉様を見ていると気づく。だってあまりにも、おかしいんだもの。
「お姉様、発言に気を付けた方がよろしいですよ」
「妻の姉だからといって、俺の前でそのような発言をして許されるとでも?」
私の言葉に続くように、ずっと黙っていたグラナート様が口を開いた。私に発言を任せてくれていた。
でも、私への発言が我慢できなかったんだろうなと思う。




