紅葉。もみじ狩り。
週末は生憎の晴天だった。この場合の表現は生憎で間違いない。僕の意思なんて尊重されるはずもなく、土曜日曜にかけての二日間。折角の景品だからと掃除が済んだばかりの共同住宅を使っての簡易合宿である。紅葉狩り。研究のけの字もありはしない。そして、雨天中止の、今日は晴天だった。
……生憎、である。僕の日頃の行いの良さに泣きそうになった。少しは悪い子でいろと神の思し召しなのかもしれない。
「あはは、何言ってんの顕正くん。顕正くんが良い子だったことなんて一度も無いよ」
「緑絶対僕の事嫌いだろう」
「ん? 好きだよ」
「うるさい」
「何それ」
緑の追及を無視して、僕は窓の外を見た。土曜の朝に集まって、そこから明音さんが知っている穴場だという自然公園へ。今はその行きの電車内だった。当然の帰結というべきか、ありとあらゆる荷物は僕が持っている。それくらいは別に良いんだけどさ。
週末だと言うのにさほど混んでいない車内を軽く見渡してみると、蒼ちゃんの表情がいつもより多彩な事に気付いた。あと三カ月、宣言を受けてから、どこか彼女は明るさが増した気がする。残り時間をめいっぱい楽しもうと、きっと、前向きな思想なんだろうな。
「ねぇねぇ顕正くん」
「……」
「……これ以上無視するなら無い事無い事三笠先輩に吹き込むことになるけど」
「嘘つく気満々じゃねぇか!」
「あ、ねぇねぇ顕正くん」
「……何」
僕は本当に嫌われてるんじゃなかろうか。
「ほら、あそこ。いい感じに紅葉してるね」
言われて、緑の差す方向に目線を遣ると、なるほど、確かにいい感じに色づいた木々が山を染めているみたいだった。
「ああ、うん。綺麗だ」
「でしょ? まるであたしみたい」
「毎度悪いけど僕は突っ込まないからな」
「ノリ悪いなぁ」
「最近お天道様の機嫌が悪いみたいだからね」
「……えっと、海苔?」
「ああっ、また剥がれた」
「糊?」
「悪法も法なり」
「法……分かりにくいよ、それ」
「くそ、限界か」
何がしたいのかも定かでは無かった。まぁ、結局僕らの会話なんてそんなのばっかなんだけど。
「そこの馬鹿二人、次降りるわ」
「容赦ないね明音さん」
「? 馬鹿じゃないの? 貴方達」
「そんな心底意外そうな表情で言われたら流石の僕も傷つくんだけど」
「ああ、それなら大丈夫よ、傷つけるってことは貴方はまだ人間ってことよ」
「僕はこれからもずっと人間でいるつもりなんだけどなぁっ!」
「そう、それは残念ね……」
「え、なんでそんな本当に残念そうに言うの? 僕人間じゃなくなるわけ?」
「運命を受け入れなさい。そして気を強く持って生きなさい。そうすればきっと、幸せは訪れるはずよ」
「だからなんでそんな諭すように言うんだよ!!」
「冗談よ」
「でしょうねぇっ!」
「電車内では静かにしなさい。さ、降りるわよ」
「……はい……」
ともあれ、到着である。……既に僕の精神はズタボロな気がしないでもないけど。
*
さほど急でも無い山道を少し登ると、僕らの眼の前には開けた土地が広がった。一面、紅葉した木々に埋め尽くされている。明音さんは来慣れているのか無感動にシートを広げ出して、美稲は美稲で眠たそうにそれを手伝い、赤坂姉妹は二人して簡単の息を漏らしていた。僕はと言えば、唖然である。聞いた話だと、ここはまたしても三笠家の私有地だとか。どれだけ金持なのか、想像もつかなくなってきた。そりゃあ校長の別荘を見たって驚き一つ見せないわけだ。この人は何事においてもぶっ飛び過ぎている。
「さぁ、宴よ、顕正」
ぼうっとしていた僕の肩をポンと叩いて、明音さんが呟いた。
宴、か。いつまで続くのだろうか、僕たちの宴は。果ては近くて、でも、まだ先は見えない。
ようやく更新となります。二話か三話使ってのもみじ狩り。次回もよろしくお願いします。
それでは、感想評価等戴ければ幸いです。