紅葉。百万本。
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青いビニールシートの上に足を投げ出して、僕は色づいた紅葉ではなく空を眺めていた。秋の空は近いと言うが、どうにも、僕にはその感覚が掴めない。こういった風情とかなんとかはやっぱり苦手だ。綺麗なものを綺麗と思う感情はあれど、その綺麗を言葉で表現する力を、僕は持っていなかった。
「綺麗ね、顕正」
ぼうっとして空を眺めている僕の隣に座り込んで、明音さんが声をかけてきた。ちらりとその横顔を見やり、紅葉にも映える端正な顔をしばし見つめてから、頷く。
「そうだねぇ」
「全然駄目ね、顕正」
「え?」
急に僕の方に視線をやって、明音さんは呆れた風に言った。
「こう言う時は、『君の方が綺麗だよ』が通例でしょう? 私は王道とか普通とか当然とか大嫌いだけど、あなたはちゃんとやりなさいよ」
「捻てるだけじゃないか」
「人の顔じろじろ見まわしといて良く言うわね」
「うぐっ」
気付いていたのか。流石というか、抜け目ない。こうなれば僕に拒否権なんてあるはずもなく。
「君の方が綺麗だよ、明音さん」
「はっ、聞いてなかったわけ? 私通例とか社交辞令とか大嫌いなのよ」
「君が言わせんだろ! それと社交辞令はいってなかった! ……あと、社交辞令のつもりはない!!」
「……っ。あぁ、そう」
喉を詰まらせて、明音さんがワザトらしくそっけない声を作る。どうやら少し照れているみたいで、僕としてはしてやったりである。
「何にやけてんのよ」
普段以上にキツイ口調は悔しさからとみた。余計ににやけるのが自分でも分かった。完勝だ、珍しいどころか初めてである。
「ちっ、死になさい」
「劣勢とみたらそれか! ……うわ、ちょっと、箸の先を眼球に向けるのは止めてください失明するから!」
「失明はしないわ、死ぬのよ」
「なお悪いわ!」
あまり追いこむとバイオレンスにも拍車がかかるらしかった。いよいよやりにくい人である。
「にしても、ここの紅葉はすごいね。何本くらいあるの?」
「百万本……」
「それは嘘だ」
「違うわ、針百万本飲ますのよ」
「僕がいつ嘘をついた!」
「いつかよ」
理不尽だ。後で聞き直したところ、およそ千本強らしい。千本と聞いてまた針の事を思い出し、少し身体が震えた。条件反射の植え付けかたも天下一品である。敵に回したらあの山神ですら瞬殺される気がしてきた。そんなはずがないのにそう思わせる。ある意味最強の人種だと思う。
「ねぇ」
「うん?」
明音さんが、今度は物静かに尋ねてきた。どことなくしおらしい感じがして、少し姿勢を正して聞く態勢になる。普段があんなだからこういう声を出されると反応してしまって、これも条件反射の一つだよなぁ、なんて思った。
「私は、いなくなるつもりは無いわ」
「……うん」
「絶対よ。最低でも卒業までは貴方の近くにいる」
「……そっか。ありがとう」
答えて、僕は立ち上がった。折角来たんだし、少しくらい写真か何か撮っていこうかな。
「顕正っ!」
「……」
語調を荒げた明音さんの叫び声が届いて、スニーカーに通しかけた足が止まった。ゆっくりと、振り返る。
「何?」
問いかけると同時、明音さんの表情が少しこわばって、冷たい目をしちゃったかなと反省する。でも、仕方ない。
「勝手にいなくなったら、殺すわよ。いいわね」
「うん」
即答すると、明音さんは安心した風に息をついた。卒業はまだ遠いのに、気が早いんじゃないかな、明音さんは。それとも、僕の雰囲気から何か感じとったのだろうか。有り得るし、だとすれば、やっぱり流石だ、明音さん。
でも、大丈夫。そんなつもりは無いから。殺されたくは、僕だって無いから。
せいぜい、殺されないように。今は楽しむ。さよならの先は、まだ見ない。たとえ見えていても、まだ、目を逸らしていたいから。
それは、逃避なのかな。
更新頻度は多少元に戻ることと思います。夏が近いですが夏バテにならぬよう。……かくいうおれが体力に自信無いのは愛嬌ということで。
それでは、感想評価等戴ければ幸いです。




