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勝利。抱擁、擁護。

「抱いてくれても構わないわ」

「真顔で寝言をほざくのは摂理に反してると思うんだけどね」

「寝言のつもりは無いのだけれど」

「絵空事ですかそうですか」

「顕正、目を瞑りなさい。キスしてあげるわ」

「カッターナイフとキスする趣味は無いなぁ僕にはっ!」

しわ一つ無かった白いシーツのベッドに寝転んで、三笠さんは妖艶さを魅せるかのように言葉を紡いでいた。つまらなそうに唇を尖らせる彼女に嘆息しつつ、僕は僕で、中断していた片付けを再開する。

ある日の放課後に、時間は遡る。



復活祭こと文化祭終了から三日が経ち、総合優勝の団体が発表されるにあたって、僕ら研究部はダントツの順位に収まることとなった。あれだけの数をあれだけの短時間で捌いていたのだから、この結果も当然の帰結である。

ということで、賞品たる校長所有の別荘に、ある程度の荷物の配置と掃除、下見のために向かうことになりましたとさ。部室に全員揃った段階でそれを宣言すると、明音さんがついていくと言いだした。他メンバー、美稲も共に僕らと来ることになって、赤坂姉妹は給与された賞金の部費で何かしら使えそうなものを買いに行くと。チームわけがすんなりといったので、早速移るは行動である。

景品として提示していた時の文句に正しく、校長所有の別荘は確かに学校から徒歩三分の場所にあった。見た目は普通の共同住宅らしく、なるほど最近良く聞くルームシェアとかいうのには最適な作りにも思える。

「ふぅん、校長、金持ちね」

明音さんが何の感慨もなさそうに呟いた。なさそう、じゃなくて、本当に無いのだろう。どうでもよさそうにとっとと鍵を持って玄関に向かっている。僕と美稲はしばしその予想外にまともな外観に呆気にとられてから、ようやく明音さんの後を追って既に開かれた玄関に踏み入れた。所詮高校の文化祭の景品にする程度の物件、もっとボロっちぃのを想像していたんだけど、これは嬉しい誤算だったみたいだ。

「明音さん、中どう?」

「予想通りというか。埃っぽいわね、やっぱり」

「あー。最初は掃除か」

そうなるとは思ってたけどね。なるほど、生徒に貸し出すことで掃除もさせようって魂胆か。校長、流石に抜け目ない。……いや、自分で管理しようよと思わないでもないけど。恩恵を受けて無い身なら一笑にふすところだ。

四つあった部屋を見て回り、それからそれぞれ掃除に移る。以前校長かその親戚が使っていたのか、掃除機や冷蔵庫、洗濯機にテレビなど、家電も一通りそろっていた。各部屋にはベッドもあったくらいで、中々に至れり尽くせりな歓待を受けているみたいだ。うんうん、上々上々。最近山神の癖が移ってるみたいでいただけないな。

「うし、掃除終了」

「お疲れ」

「なんで本読んでるんだよ明音さん」

「暇だからよ」

「……あそう……」

わかっちゃいたけどね、こう言う人だって。美稲に至っては掃除途中に一階の部屋でベッドに寝転がっているのを見つけていた。熟睡しているようで流石に起こすのは憚られていたのだけど、少しばかり文句を言わせていただきたい所存ではある。

「顕正」

「ん?」

呼ばれて見てみると、明音さんは本を閉じて、ベッドに横たわっていた。

時間軸はようやく冒頭に戻る……。



「はっ、何よ、誘ってくる女一人抱け無いなんて終わってるんじゃないの? 男として」

「毎度毎度の危険な発言にはもう慣れたけどっ! 僕はけして終わってないから!」

「ふぅん、じゃあ、証明しなさいよ」

「ああ、ここまで言われて黙ってられっか! やってやあああああああああああ!! 何言わせるんだよ、アンタは!」

「ちっ」

「自分をもっと大切にしてください……」

「してるわよ。自愛の局地よ私は。だから誘ってるんじゃない」

「余計に危険なセリフをどうもありがとう。でも僕だって男なんだから、あんまし煽情発言してたらどうなっても知らないよ。それこそ自愛しなって」

「だから、どうにかさせるためにしてるんじゃない。察しの悪い男ね」

「僕は僕の理性をもって君だけは襲わない事をここに誓っておくよ!!」

駄目だ、この人のペースに巻き込まれたらどうしようもない。

「そう言えば、顕正」

「うん?」

ふと明音さんの声のトーンが落ちて、自然、僕の喉が鳴った。急に、なんだろう。

「昨日なんとなく胸囲を測ったのよ。一センチ増えてたわ」

「君の僕に対する認識に若干の不安を覚えるんだけど」

「何よ、私の胸なんかには興味がないっていうの?」

「だからさ……」

僕も一丁前に男なんだから、あんまり煩悩を刺激して何がしたいんだこの人は。あれか? 襲わせて脅迫か?

「顕正の私に対する認識もどうにかしてほしいものだけどね」

「いや、このうえなく正しいと思う」

「普通に、好きな男の子にアプローチかけてるだけのちょっと積極的な女の子だとは思えないわけ?」

「思えません」

「単純に死になさい」

「おわぁっ」

咄嗟に飛びのいたフローリングの床に先ほどのカッターナイフが刺さった。今のはマジで殺す気の一撃だった。今回は僕にも非がある気がするから不思議だ。後々考えてみると全面的に僕が悪かった気がした。摩訶不思議である。


何もそんなに急ぐ必要は無いのに、最後が見えている時に限って、来てほしくない終わりが待っている時に限って、時の流れは速くなる。

秋深く、冬も、近い。

更新が遅れてまいりました、偏にテストの影響に御座います。頑張ります。


それでは、感想評価等戴ければ幸いです。

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