【3-17】黒と白と赤:1
赤の国のあたらしい王様は、とてもおそろしい人でした。
まえぶれなく白の国にへいたいをひきつれて現れ、たくさんの人のいのちをうばいました。
白の国の王子さまは、みなを守るためにひっしにたたかいましたが、こうかつな赤の国の王様にはかてませんでした。
このままでは、白の国の王子さまは赤の国の王様にころされてしまいます。
赤の国の王様が白の国の王子さまのくびをきろうとした、そのときです。
白の国でひどいあつかいをうけていた、黒の国のお姫さまが剣のまえにとびだしたのです。
かつてのうつくしさを失い、ろうばのようになった黒の国のお姫さまは、赤の国の王様にいのちごいをしました。
どうか白の国の王子さまをころさないでほしいと、なみだながらにうったえます。
赤の国の王様は、黒の国のお姫さまのこころのうつくしさに、剣をおさめます。
そして、白の国の王子さまはころさず、黒の国のお姫さまを赤の国につれていくことにしました。
白の国の王子さまは、しいたげていた黒の国のお姫さまにいのちをすくわれたのです。
そのけだかいすがたに、ようやくきづきました。
黒の国のお姫さまは、おさないころにけっこんの約束をした、あのやさしい女の子だと。
白の国の王子さまは、黒の国のお姫さまをたすけるために赤の国へと向かいました。
いきもこおるような赤の国のさむさの中、白の国の王子さまはすすみます。
そうして、ようやく黒の国のお姫さまにたどりついたのですが、なんということでしょう。
黒の国のお姫さまは、こうかつな赤の国の王様にせんのうされていたのです。
赤の国の王様は、やさしくじゅんすいな黒の国のお姫さまを、あの手この手でかいじゅうし、ずっと赤の国にいたくなるようにしむけました。
白の国の王子さまが助けに来たというのに、黒の国のお姫さまはひとつもよろこびません。
こんどこそお前をころしてやると、赤の国の王様は白の国の王子さまにせまります。
白の国の王子さまは、ぜったいぜつめいです。
赤の国の王様はとてもつよく、ざんこくなにんげんです。こころやさしい白の国の王子さまに、かちめがないのは明白でした。
白の国の王子さまは、赤の国の王様とたたかいながらも、ひっしに黒の国のお姫さまによびかけます。
白の国にいっしょにかえろう、そして約束通りけっこんしようと。
白の国の王子さまのよびかけに、黒の国のお姫さまにかけられていたせんのうがとけました。
白の国の王子さまの、愛の力が勝ったのです。
白の国の王子さまと黒の国のお姫さまは、ふたりできょうりょくして赤の国の王様をたおし、白の国にかえりました。
めでたしめでたし。
* * *
「アマリア……?」
「エドゥアルト様」
部屋に飛び込んで来たエドゥアルト様に、私は驚かなかった。
驚いたのはエドゥアルト様だ。
彼が室内に一歩踏みいると同時に、背後で扉が閉まったから。エドゥアルト様が引き連れて来た騎士と、分断させる為に。
「……!!」
「大丈夫です」
ぴたりと閉まった扉を青褪めながら振り返るエドゥアルト様に、静かに告げる。
「命までは取りません。そう、約束をしています」
「アマリア……?」
私が静かに告げると、エドゥアルト様は訝し気に眉を顰めた。
が、次の瞬間剣を構える。
部屋の隅、灯りが届かない暗い場所にいる、ブレネントルカに気付いたからだ。だが、自分に剣を向けるエドゥアルト様を見ても、ブレネントルカは腕を組んだままで、人形のように身動ぎすらしない。
「大丈夫です」
もう一度、繰り返す。
「ブレネントルカは、私がカルツに戻ることを望むなら見送るのみで、戦いは不要だと考えています」
「……じゃあ……」
「ですがその前に」
僅かに瞳を輝かせるエドゥアルト様に、私は微笑んだ。
「私は知る必要があるのです。どこから間違っていたのか……どこからが嘘で、どこまでが真実だったのか。それを知らないまま、エドゥアルト様と共にカルツに戻る訳にはいかないのです」
「嘘? 真実? 何を言っている?」
訳が分からない、といった感じのエドゥアルト様に、ブレネントルカが息を漏らした。笑ったのだろう。
だが私は逆に笑みを消し、繰り返す。
「私は知る必要があるのです。ずっと囚われていた場所から、解放される為に」
私は今も、あの荒れ果てた部屋の隅で、膝を抱えて震えている。




