↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢物語  作者: 東雲野乃
【3:後半】囚われの悪女を、王子様が攫ってくれました。(中編)
41/45

【3-16】赤の国:6


 私を『助け』に?

 『奪いに』または『連れ戻しに』の間違いではなく?


 そう思ったのが表情で分かったのか、ブレネントルカは続ける。

「お前が腰抜け王子を庇ってブレネントの捕虜になったことで、今までの悪評が払拭され――というか、『改心して聖女となった姫』扱いされているそうだ」

「改心?」

 私は何も変わっていないのだが、それも伝わったらしく、ブレネントルカは小さく笑った。


「国の威信をかけてお前を奪取し、カルツの皇妃とする計画が持ち上がっている」

「皇妃……」

「腰抜け王子の妻」

 私の呟きに律義に補足を入れられたが、それでも戸惑う。

 エドゥアルト様が私を助けにくること、悪評が消えたこと、喜ぶべきことなのだろうが、心が動かない。


 私が沈黙すると、ブレネントルカは言った。

「お前はどうしたい?」

「どう、って」

 ブレネントルカの顔を見れずに視線を彷徨わせると、重ねて告げられる。

「好きにすればいい。俺達は――ブレネントは義理を果たした。ここから先は、お前が選んで動くんだ」

「………………」

 何故、ブレネントルカの台詞に痛みを感じるのだろう。


 長い沈黙の後、やっと声を出せたが、それは掠れていた。

「私が、戻りたいと言ったら?」

「止めない。腰抜け王子とカルツの騎士とは戦わず、傷一つつけずに返すだろう。あちらの動きにもよるが」

「私がここを去った場合、父は?」

「何も変わらない。お前の行動如何で見捨てることはない」

「………………」

 質問には、間髪入れずに返される。嘘ではないことも分かる。


 聞きたいことは、もう一つある。

 だが、一番発したい質問は私の喉から先に出てくれず、私は口を閉じた。

「……数日内に決めればいい。だが、早めにな」

「……ええ」

「もう部屋に戻れ」

「ええ」

 ブレネントルカの穏やかな声に頷き、私は踵を返した。




 自室に戻ると、レッタがベッドを整えている最中で、私を見ると微笑んで、身体を温めるワインを用意したと言って来る。

 サイドテーブルにあるそれを見て礼を言うと、レッタは笑みを深めておやすみなさいと言って来た。

「――レッタ」

 部屋から去ろうとする彼女を、何故呼んだのかは分からない。

 けれど、レッタは小首を傾げてから戻って来て、私に問うて来る。


「どうされました?」

「あ……えっと……」

 思えば、レッタは甲斐甲斐しく世話を焼いてくれているが、個人的な話をしたことはない。

 彼女の性格や、距離が近い割に不思議だと思っていたが、ブレネントルカからそう命じられているのではないか? と思い至った。


 けれど、父がいた部屋と同じように、私(・)か(・)ら(・)話しかけたら?


「レッタ。少しだけ話したいの」

「……はい」

 私が彼女から目を逸らして言うと、レッタは大きく頷いた。



 ベッドの端に並んで腰かけてから、私はレッタに言った。

 近日中にカルツから迎(・)え(・)が来ること、私が望めばカルツに戻ることは止められないこと。恐らく今までのような待遇ではなく、厚遇が待っているであろうこと。

 そこまで言うと、レッタは問うて来た。


「姫様は、どうされたいのですか?」

「それは……」

 言い淀んでしまったが、心は決まっている。

 だが、それを口に出すことが恐ろしい。


 私が目を伏せて黙り込むと、レッタは優しく言って来た。

「姫様がどの選択をしたとしても、私はそれを尊重します。ですから、姫様は心の赴くままに――」

 そこで、レッタの言葉が途切れた。

「? レッタ?」

 思わず顔を上げて、彼女の顔を見る。そして、息を飲んだ。


 表情豊かなレッタの、初めて見る顔だった。

 目に涙を溜め頬を紅潮させ、引き結んだ口元と肩が震えている。

「レッタ――」

「ごめんなさい、姫様」

「え」

 私が小さく声を漏らすと、レッタが立ち上がって私の前に来、膝を着く。


 そして、伸ばされた指先が私の両手を強く掴んだ。

 両目からはらはらと涙を流して、レッタが叫ぶ。

「姫様を困らせるだけだと分かっています! でも――これ以上黙ってられません!! 姫様、カルツに戻らないで下さい、お願いします、戻らないで……!!」

「レッタ」

「姫様についての誤解が解けても、今後は大事に扱われるのだとしても――奴らがどれだけ後悔していようとも、許してはならないことがあるのです!! あのような……姫様にあのようなことをした奴らの元になど戻ってはいけません、絶対に!!」

「レッタ……」


 基本的に物静かだったレッタの、激情とも言える言葉に驚きながらも、思い至る。

 これまでレッタの挙動の端々に浮かんでいた、カルツへの軽蔑。

 時折見せていた、私の回復具合への安堵。

 私が置かれていた境遇への同情と言うには、あまりに深い感情。


 ふいに、意識の外から言葉が出た。

「……あなたが、食事を届けてくれていたのね……?」

 レッタは私の手を額に当て、ただ頷く。何度も。

 カルツの城から与えられていた、到底食事とは言えないものとは違う。

 純粋に、私を想い命を繋ぐ為の食料。


 あれは、諜報活動の為にカルツの城に潜入していた、レッタがしていたのだ。

 エドゥアルト様ではなかった。


 レッタの目から溢れた雫が、私の指を伝い、床へと零れて行った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。