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悪役令嬢物語  作者: 東雲野乃
【3:後半】囚われの悪女を、王子様が攫ってくれました。(中編)
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【3-13】赤の国:3


 事情を知らない誰かと話させるよりは、と思ったのか、ブレネントルカが自ら私の案内と指示役となった。


 別館とはいえ本館並みの広さがあり、国民全員と家畜を数日間迎え入れても、まだスペースには余裕がありそうだ。

「別館は本館を挟んで左右にある。構造は大体同じだが、片方は人間、片方は家畜だ。更に性別や健康の度合い、家族構成によって階層で区分けして、病気の蔓延やトラブルが起こらないようにしている。ここまではいいな?」

「分かったわ」

 ブレネントルカの後を追いながら、部屋の並びを頭に叩き込んでいると、上階の人気のない場所に差しかかった所で、ブレネントルカが足を止めてやや強めに言って来た。


「人手が多ければ多い方がいいが、元々そんなに体力はないだろう、無茶はするなよ。出来る限りレッタか誰かと一緒に動け。一人でいる時は男だけがいる場所、病人を隔離している場所、人目や人気がない区画には近づくな。暗くなって来たら、必ず本館の自室に戻るんだ」

「ええ」

「例え誰かに緊急事態だと呼ばれても、必ずレッタか騎士か俺を呼べ。繰り返しになるが、一人で何とかしようとは思うな。国民全員が善人な訳じゃない」

「……ええ」


 意図を理解して私が大きく頷くと、ブレネントルカは軽く息を吐いてから、バツが悪そうに髪を掻く。

「……あまり怖がらせたくはないんだが、かといって、教えておかない訳にもいかない。そこは理解してくれ」

「分かってるわ」

 私がまた首肯すると、ブレネントルカは安堵の笑みを見せる。


 ここに来る前に逗留していた街で、私が負った傷について彼が気にしていたことを思い出し、思わず笑みを返しそうになった。だが自制した。

 誤魔化す為に、少し遠くに見える、見張りと思われる騎士が立っている扉を指して、問う。


「あそこは何の部屋? 犯罪者の収監場所?」

 途端、ブレネントルカが顔から笑みを消した。

「……ああ、犯罪者だ。見張りには、俺が許した人間しか通さないように言いつけてある。どうせ先へは行けないから、近付くなよ」


 先よりも一段階低くなった声色だったので、思わず彼の顔を見返すと、表情を確認する前に、目を逸らされる。

「次の場所へ行こう」

 と身を翻したので、それ以上は聞くことが出来なかった。


 * * *


 体力だけではなく腕力もないので、手始めに配給の手伝いをすることになった。

 ブレネントルカに先導されて一階の広い部屋に行くと、そこには大人数の女性と少数の男性、それに一定の年齢以上と思われる子供の姿が見える。

 ブレネントルカがまとめ役らしき女性を呼び、私を先と同じように紹介すると、

「じゃあ、上手くやれよ」

 と言い置いて、ブレネントルカは姿を消した。忙しいのだろう。


「リア、今から手順を説明するね」

 ブレネントルカが去っていた出入口を見ていた私に、女性が声をかけたので、我に返った。

 慌てて視線を戻すと、女性はモアナを思い出させる笑みを浮かべて、続ける。

「まずは自己紹介だね。あたしはゾフィ。呼び捨てでいいよ」

「は、はい。よろしくお願いします。……ゾフィ」


 頭を下げる私にゾフィはにこりと笑い、手招きする仕草をしてから奥に歩き出した。後を追う。

「もう少ししたら、食堂代わりのここで食事を配る時間になるから、あんたには出来た料理をここに運ぶ仕事をして欲しいの。あ……料理は出来る?」

「で、出来ません」

「だよね。じゃあやっぱり運び屋さんだ」

 ゾフィは私の返答に快活に笑う。

 私は料理が出来ないように見えるらしいが、嫌味のような悪意は感じない。私もつられて笑った。


 ゾフィと話している内に、男達がテーブルと椅子を並べ始めたので、ゾフィは「こっち」と言って更に奥へ行く。扉が見えた。

 扉を抜けた先は厨房で、調理担当と思われる女性達が、大きな鍋をいくつも使ってスープを作っている。暖炉はない部屋なのに、石造りのかまどの火と鍋から立ち上る湯気で、空気は暖かい。漂って来るスープの匂いに、なんとなくほっとした。


 ゾフィは丸いパンが沢山乗っている木の盆を指して、言って来る。

「これなら運べそうかい?」

「は、はい」

 勢いで頷いてしまったが、実際持ってみると乗せられているのがパンなので、重さはそうない。

「さっきの部屋に運んでね。慌てて落としたら大変だから、落ち着いて」

「はい!」

 私は大きく頷いた。


 * * *


 軽いものでも往復する回数が多いと、流石に疲れる。

 配給の時間が終わると、ゾフィにまた呼ばれて厨房の隅にあるテーブルに着いた。


 ホットミルクとクッキーが載った皿が前に置かれて、思わずソフィを見る。

「休憩だよ。お食べ。動き回ってたから、お腹空いただろ?」

「あ、ありがとうございます」

 空腹とは逆の、何となく胸が一杯になった感覚だったのだが、クッキーを一枚口に入れると、手が勝手に動いて次の一枚を取る。


 自分で自分の状態が分からなかった事を不思議に思いながら、私が黙々とクッキーと食べていると、ゾフィは頬杖を突いて目を細め、言って来る。

「喉に詰まらせないようにね。誰も取らないから、ゆっくり食べな」


 穏やかな声に、一瞬泣きそうになった。


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