【3-14】赤の国:4
元々気さくな人柄だったのか、それともブレネントルカが指示したのか、もしくはもっと違う理由からか、私が手伝い始めて数日経つ頃には、ゾフィだけでなく領主の男性、その他色んな人に交じって、昼食を取るようになった。朝食と夕食は変わらず、本館でブレネントルカと摂るけども。
意図せず敵国の人間に馴染んでしまった感があるが、そもそも私が手伝いを申し出たのも、ブレネントの国についてもっと知り、いずれ私を助けに来てくれるエドゥアルト様の助けになろうと思ったからだ。
「他の国との国交はないと聞きましたが、ここの気候では手に入らないものもあるでしょう? そういうのはどこから調達してるのですか?」
ここ数日抱いていた疑問を同じテーブルを囲んでいる面々に問うと、城下町で商人をしているという年嵩の男性がホットワインをちびちびと飲みつつ答えてくれる。
「ブレネントルカ様の功績だよ」
「ル……陛下の?」
思わず愛称の方で言いかけて、慌てて言い直したが、そこは気付かれなかったようだ。
男性はゾフィと頷きながら、続ける。
「ここいらが厳しい場所なのは、気候だけじゃない。春がほとんどないことも暴風雪もそりゃ辛いが、時折雪崩で死者も出ていたし、僅かな種の野菜しか育たず、森の近くじゃ獣も出る。おかげで他の国から攻め込まれにくいという良い面もあるんだが、それだけじゃ生きて行くにはな」
「まあ、だからといって、前王はそんなこと知ったこっちゃなかったんだけどね。地形が理由で国民が逃げられない、他から攻められもしないならむしろ好都合と考えて、後先考えず増税に増税を重ねて、凍死者に餓死者が積み重なった」
ゾフィが繋ぐように説明するのに相槌を打つと、男性が温かいワインの入ったマグカップを傾けてから、また口を開く。
「前王の所業に誰よりも早く怒ったのが、ブレネントルカ様だ。このままじゃ国そのものが滅ぶと察して、前王を討った。勿論、準備を重ねて味方を増やして少しずつ力をつけ……計画的にな。前王は何が起きたかもわからんかっただろう。それ位、緻密で素早い簒奪だった」
「簒奪?」
言葉選びに違和を抱いて首を傾げると、ゾフィが補足する。
「ブレネントルカ様には、元々王位継承権がなかったんだよ。当時は王子が他にもいたし、ブレネントルカ様はあちこち放浪してたから」
「でも、国民は全員一致でブレネントルカ様を選んだ」
男性が大きく息を吐いて、笑みを浮かべる。
「何故?」
そうとしか聞けずに問うと、ゾフィが笑いながらテーブルの上に並んでいる料理を指す。
パンにバター、肉と野菜の入った温かいスープとワイン。質素ではあるが、災害で避難中のものとしては豪勢なメニューだ。
「あんたがさっき聞いたことの答えさ。国民が飢えないように、ブレネントルカ様は食いもんの調達先を準備した。放浪中に、暖かい地方の手つかずの土地を見つけ、そこをブレネント領の一つとして、開拓民を募って平原に水を引き、畑を作らせた。最初は小規模だったが、移住者と家畜は年々増えてる。いずれは、第二のブレネントと言えるくらいになるだろう」
「それは……」
想像以上だし、部外者の私に教えてもいい話なのだろうか。
そう思ったのが顔に出たのか、ゾフィは肩を揺らして笑った。
「別に秘密じゃない。この国の人間は全員知ってる。いや、計画段階から知らされてた。ブレネントルカ様から」
「『国民の為の政策なのに、為政者がだけが知っていてどうする』ってな」
「………………」
「ブレネントルカ様が王になってくれて良かったよ、本当」
情報を得たいと思っていたはずなのに、その情報で混乱している。
私は、どういう話を聞きたかったのだろう?
ブレネントルカの悪評? ブレネントルカの残虐性? 愚かな王としてのブレネントルカの話?
思わず、言葉が口を突いて出た。
「なら、ドゥンテルは何故……」
私が思った以上にそれは響いてしまい、ゾフィと男性が会話を止める。が、思い当たることがあったのか、言って来た。
「ああ、ブレネントルカ様は幼少時、ドゥンテルの王様に世話になったからね」
「え?」
「政についても色々教わった、恩人だと常々言っていた。けど、無茶なことをするもんだよ。成功したからいいものの」
「えっと、あの」
予想外どころか、訳の分からない方向に話が行っている。
そうとしか思えなかったのだが。
私だけを置いてけぼりにして、男性と笑い合っているゾフィが言った。
「あとは、ドゥンテルのお姫様だね」
* * *
ブレネントルカが犯罪者を収監しているという部屋の前に行き、見張りの騎士に告げた。
「私はアマリア・ラウナ・ドゥンテル。……入れて下さい」
震える指先は隠せなかったが、それでも見張りの騎士は無言で脇に退き、扉を開けてくれた。
扉の先は廊下で、奥に見えるやや豪華な両扉の前に着くと、私は軽くノックした。
「どうぞ」
思ったよりも張りのある、はっきりとした声に勇気づけられ、扉を開ける。
私が寝泊まりしている部屋よりはやや質素だが、それでも豪華な部類に入る整えられた室内が見えた。
薄着でも凍えない暖かい部屋というだけで、この部屋にいる者の為に、どれだけ心を砕かれているのかがわかる。
それだけで泣きそうになったが、それを堪えて見つめる。
ベッドの上で身を起こして本を読んでいた人物を。
「……リア?」
懐かしい声が私を呼んだ。




