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悪役令嬢物語  作者: 東雲野乃
【3】囚われの悪女を、王子様が攫ってくれました。(中編)
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【3-1】白の国から赤の国へ行く途中:1


 ブレネントの王は、獣のような大男だった。


 軽装の上に毛皮のマントを羽織っただけの野盗のような姿、細身のエドゥアルト様と比べるまでもなく、熊と見紛うような体躯、エドゥアルト様の金髪碧眼とは正反対の黒髪金目、そして褐色の肌。


 彼は荒々しい足音と共にやって来て、カルツの城を蹂躙して行った。

 悲鳴が満ちる中を悠々と歩き、私とエドゥアルト様、それ以外の人達も集まっていた大広間に到着すると、右手にぶら下げていたものをエドゥアルト様の前に放り出す。

 それはごろごろと血を撒き散らしながら転がって、濁った瞳をエドゥアルト様に向けてから動きを止めた。


「父上……!」

 エドゥアルト様は流石に叫びはしないものの、絶望に満ちた声を上げ、そして即座に剣を抜くと、悪鬼のように笑うブレネントの王、ブレネントルカに飛び掛かった。

 勝負は一瞬で終わり、エドゥアルト様の剣が弾かれると、遠く離れた場所に突き立つ。


「お前の御父上も弱かったが、その息子も弱いとは。笑えるな」

 嘲笑を含んだ台詞と共に、血に染まった剣先が、エドゥアルト様の喉元に突き付けられそうになった時、勝手に足が動いて、二人の男の間に飛び込んでいた。

 エドゥアルト様に背を向け、ブレネントルカの前に両手を広げる形で。


 私の行動に驚いたのか、ブレネントルカは即座に私を斬って捨てたりはしなかった。

 その隙を突いて、思いつくまま声を出す。足は震え、自分でも分かるほど声もか細かったが。


「わ、私はドゥンテルの王女、アマリア・ラウナ・ドゥンテルです。私を捕虜として、ブレネントに連れて行きなさい」

「ほう」


 狼のような金目が細められ、私の爪先から頭の天辺までを舐め回す。

 そして、犬歯を見せた。


「その代わり、その優男を殺すなって?」

「……そう、です」


 頷き、息を止めてブレネントルカを見る。

 今後の交渉材料、もしくは人質としての価値を見出されなければ、ここで終わりだろう。

 かといって、自分を売り込む言葉など出て来る訳がない。

 ブレネントルカに王としての素養があるのなら、言うまでもないことだから。


 長い数秒が経過して、静かな広間に笑い声が響く。ブレネントルカだ。

「……いいだろう。お姫様の胆力に免じて、王子様の命は助けてやる」

 そう言って、彼は剣を鞘に収めた。





 一応といった感じで両手首に縄をかけられ、その上でブレネントルカに抱えられた状態で、城の外に出た。

 もう少しで冬が来る時期だったので、頬に当たる風が冷たく、思わず肩を窄めて震えたところで、降ろされる。


 解放される訳でもなさそうなので、思わずブレネントルカを見上げると、彼は羽織っていた毛皮を脱いで、それで私をぐるぐる巻きにし、そしてまた抱え上げた。

 まるで荷物だ。


「……逃げるつもりはありません。自分で歩けます」

 本音だったのだが、私の言葉にブレネントルカは肩を揺らして笑った。

「その足でか?」


 それだけ言って、待たせてある騎士――彼らも鎧ではない軽装だが、騎士だと思う――と、馬に向かって歩き出す。

 私に歩かせるつもりはないらしい。

 それよりも、ブレネントルカが吐いた言葉の意味が分からなかった。

 どんな足だと言うのだろう。


 いやそれよりも。

 意外にも私は絶望していない。

 エドゥアルト様がきっと助けに来てくれると分かっているからだ。

 私が時間稼ぎをしている間に立ち直り、彼はより強くなってブレネントルカを討つ。


 そして、私を迎えに来てくれるだろう。

 私達が幼い頃に交わした、約束を守る為に。

 幼いエドゥアルト様を思い出して、思わず頬を緩めたところで、気付いた。


 暖かい。





 ブレネントルカは私を抱えたままで馬に乗り、後続の騎馬隊に合図をしてから馬の腹を蹴る。

 私にマントを渡したというのに、ブレネントルカは相変わらず軽装で、寒そうには見えない。

 平然とした顔は樹々に白いものが混じり始めても変わらず、逆に私の吐く息が白くなって行った。


 ブレネントはまだまだ先だと言うのに、ブレネントルカは途中に見えた街で馬を止め、地面に降り立つ。

「ルカ様」

 戸惑いを隠せない騎士が一人駆け寄って来るのを待ち、ブレネントルカは言った。


「一旦ここで休む。少なく見積もっても七日以上だ。このままでは死んでしまう」

「……承知しました」

 さっぱり意味が分からない台詞に対し、騎士は特に異論も唱えず、即座に理解したように頷く。

 騎士が他の騎士に伝える為に身を翻したのだが、彼が一瞬だけ私をちらりと見たのが印象に残った。


 誰が死ぬという意味だったのだろう。



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