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悪役令嬢物語  作者: 東雲野乃
【3】囚われの悪女を、王子様が攫ってくれました。(中編)
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【3-0】プロローグ


 むかしむかし、みっつの国がありました。

 白の国、黒の国、赤の国です。

 みっつの国は長いあいだ争っており、いちばん強い国は赤の国でした。


 赤の国はとてもさむい場所にあるため、どうぶつのようにからだが大きくつよく、そしてきょうぼうな男の人が王様です。

 この王様に負け続け、白の国と黒の国のりょうちは赤の国に少しずつうばわれていきました。

 このままでは白の国と黒の国のおしろまで、赤の国のものになってしまいます。


 そこで、白の国と黒の国は、仲良くなることにしました。

 赤の国が戦争がおこしても、白の国と黒の国がいっしょに戦えば、赤の国に勝てるかもしれません。


 赤の国の王様も、白の国と黒の国に仲良くなられたら、勝てないと思ったのでしょう。

 白の国と黒の国が仲良くなったことをきいて、赤の国はしんりゃくの手を止めました。


 白の国と黒の国はほっとむねをなでおろしましたが、心配ごとはまだ残っています。

 白の国は黒の国が、黒の国は白の国が、自分たちをうらぎらないようにしなければいけません。


 今は仲良くしていますが、白の国と黒の国はついこの間まで争っていたのです。

 うらぎりを心配するのは、当たり前のことでした。


 そこで、白の国の王様と黒の国の王様は話し合いをしました。


 お互いの国の王子さまかお姫さまを一人えらび、相手の国で生活させるのです。

 そうすれば、王子さまやお姫さまの安全をかんがえて、うらぎることなどできなくなるでしょう。


 そうして、黒の国からは小さなお姫さまが白の国へ行き、白の国からは小さな王子さまが黒の国へと行きました。


 黒の国の小さなお姫さまは、白の国でとてもやさしい扱いを受けました。

 小さなお姫さまが何かを望めばそれは全てかなえられ、小さなお姫さまはしあわせな日々をすごしました。


 白の国の小さな王子さまは、黒の国でとてもいじわるな扱いを受けました。

 小さな王子さまが何かをたのんでもかなうことはなく、小さな王子さまはつらい日々をおくりました。


 つらい日々に小さな王子さまが耐えられたのは、黒の国でたった一人だけ、やさしくしてくれる女の子がいたからです。

 白の国の小さな王子さまは、その女の子とけっこんの約束をしました。


 そうこうしている内にすうねんが経ち、赤の国のきょうぼうな王様もしに、すっかりおとなしくなりました。

 せんそうのおこらない、へいわな世界になったのです。


 小さくなくなった黒の国のお姫さまと小さくなくなった白の国の王子さまは、それぞれの国へかえることになりました。

 まるまるとふとったお姫さまはとても悲しみ、がりがりにやせた王子さまはとてもよろこびました。


 ですが、それでおしまいとはなりませんでした。


 白の国にかえって来た、がりがりにやせた王子さまを見た白の国の王様が、怒ったのです。

 だいじなだいじな王子さまを預けたというのに、黒の国は王子さまにやさしくしてくれなかったのです。

 白の国は黒の国のお姫さまに、とてもやさしくしたというのに。


 白の国は黒の国をほろぼすために戦争をおこし、そして、黒の国の王様をころしました。

 黒の国は、白の国のものになったのです。


 黒の国のお姫さまは白の国へと連れていかれ、どれいどうぜんの扱いを受けました。

 美しかったすがたは、みるかげもありません。

 

 白の国の王様と王子さまは、ぼろぼろになった黒の国のお姫さまを見て、ざまあみろと笑いました。


 白の国の王子さまは、知らなかったのです。

 黒の国へと連れてこられたお姫さまは、実は白の国の王子さまとけっこんの約束をした、やさしい女の子だということを。


 * * *


 カルツとドゥンテルから恐れられるブレネントの王城の中は、人っ子一人いなかった。

「アマリア! アマリア・ラウナ・ドゥンテル!! どこだ!?」

 銀色の鎧と緋色のマントを纏った金髪碧眼の男が、大声で名を呼んでから耳を澄ます。


「殿下……」

 後に続く騎士達の一人が、諫める声を出す。

 敵国の中心で、少数精鋭とはいえ襲撃者が音を立てるのは愚行でしかない。


 それは理解していたが、エドゥアルト・ウバルド・カルツヴァンニは足音を殺しもせずに駆け出し、上階に続く階段を昇った。

 エドゥアルトが探すドゥンテル王国の姫、アマリア・ラウナ・ドゥンテルは必ずこの城内にいる。事前に潜ませていた間諜からの報告で、それは間違いない。

 アマリアが、ブレネントの王であるブレネントルカ・アダーモヴナ・サフロノヴァと一緒にいることも。


 そして、アマリアは自分の助けを待っている。

 誰に聞いた訳でもないが、エドゥアルトはそれを強く確信していた。


 幼少の頃、ドゥンテルで人質として辛い生活を送っていたエドゥアルトは、アマリアの存在に救われていた。更には、アマリアと交わした結婚の約束は、今も心の支えとなっている。

 今度は、自分がアマリアを助ける番だ。


 敵に遭遇せずに冷えた空気の支配する廊下を進み、目的の扉を見つけ、躊躇わずにそれを開ける。

 途端に室内の暖かな空気が顔に当たり、一瞬ほっと息を吐いた。

 しかし次の瞬間、目を瞠る。


 広く明るく、暖かい部屋の奥、庭園を一望出来る大きな窓の前に、一人の女性がいる。


「アマリア……?」

「エドゥアルト様」


 呟くような声を律義に拾い、女性が名を口にする。

 そして、約束を交わした時と同じように、ふわりと笑った。



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